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山本理顕設計工場の「公立はこだて未来大学」を読み解く

山本理顕の2024年度プリツカー賞受賞が基因となり、あらためて山本の主要作品を読み解いている。

本日は、「公立はこだて未来大学」を読み解いてみよう。
場所は、JR函館駅から北に車で約22分の亀田中野町にある。


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「公立はこだて未来大学」

情報系の単科大学だが、「複雑系科学」と「情報アーキテクチャー」という2つの学科が入っている。


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北海道の道南圏で唯一の公立大学として開設。

「爆発的に進展をつづける情報社会のグローバル化に呼応しながら、システム情報科学を基軸にした人材の育成と研究の未来、そして地域の未来を拓くことを針路」としている。


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「情報のネットワークは人のネットワークである」

このコンセプトを基に、箱型のヴォリュームの中に人々の視線や活動がまじりあう大空間をつくり出している。


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本部棟はPC工法による「スタジオ」と呼ばれる天井高20mの大空間を中心に、透明なガラスの間仕切りを多用した計画となっている
約100×120mの平面のボックス型5階建。


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2000年竣工。
2002年日本建築学会賞作品賞受賞。
2004年公共建築賞最高賞受賞。


研究棟は、西側に隣接する傾斜地に2005年増築。
二等辺三角形の格子壁が特徴的なデザインとなっている。


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あらためて、建築の詳細を見てみよう。


配置は、函館山のロケーションをいかし、ガラス張りとなっている。


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外形は単純な箱型だが、内部は傾斜地をいかした段状の断面となり、その上を広大な「スタジオ」と呼ばれる空間がデザインされている。


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この空間は、「建築設計事務所」や「建築学科のスタジオ」をイメージしており、様々な活動、視線、音、などが混じりあっている。


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この大学にある2つの学科の作業形態が、建築を設計するときの作業形態に非常に似ていると感じた山本は、建築の「スタジオ」のような空間を賦活化させている。


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さらに、各階のスタジオに隣接するガラス張りの部屋は、教員室や研究室になり、学生と先生の密接な関係性を作り出している。


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このオープンスペースは、「オープンスペース = オープンマインド」という本大学のキャッチコピーから誘引されている。


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コンピュータと向かい合うことが多い大学だからこそ、人と人との直接的な関係性作ることが重要であるという山本の考えに基づいている。


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大きな鉄筋コンクリート造の柱と梁が「スタジオ」の大空間を支えている。

これは、運搬可能な大きさに分割したパーツを工場生産し、現場組み立てするプレキャストコンクリート(PC)工法が採用されている。
PC工法は、工期短縮と極限まで細い構造材にすることができるため、大空間の開放性を確保できる。


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この空間は「モール」と呼ばれ、エントランスホールを兼ねた、3層吹き抜けの大空間となっている。

「モール」は建物を端から端まで貫き、縦と横に奥行きのある空間を創り出し、様々な活動や音がまじりあう。


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山本は、作品集「RIKEN YAMAMOTO 山本理顕の建築」のなかで次のように記している。



函館は日本でも有数の風光に恵まれた場所である。


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そこに、複雑系学科と情報アーキテクチャー学科というふたつの学科による情報系の専門大学をつくる。
どのような建築をつくったらいいかというコンペだった。


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私たちはすべてを包み込む大空間を提案した。


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研究室も教室もスタジオも図書館も講堂も学長室も事務室もすべてがひとつの大空間の中にある。


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特に、教師たちの研究室と学生たちの活動の中心になるスタジオが敷地の勾配に沿うように、雛壇状に配置されている。


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こうした特異な雛壇状の構成は教師と学生とが密接な関係をつくるためである。


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さらにこの広いスタジオには、学生たちが自分の空間を自分でつくることができるようにアルミ製の特別な家具が用意された。


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雛壇は丸ごと大空間の中にあるわけである。


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また雛壇からは函館の町も海も港も見える。


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函館の風景をパノラマのように見る、そのための雛壇でもある。


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2002年には隣に「研究棟」が増築されている。

この研究棟も箱型の形状をしているが、特徴的なのが、建物全体の壁面に設けられた二等辺三角形の穴。
この小さな二等辺三角形の開口の連続体が、外に見える景色や人々の関係性に変化をもたらしている。


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すべての活動がオープンでフレキシブルな大空間で行われる既存本部棟校舎に対し、研究棟は研究活動により特化された、小さな空間が集合した施設である。


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「情報アーキテクチャ学科」「複雑系学科」で構成されるこの大学では、多岐に渡る研究分野の垣根を超えて研究グループ=クラスターが結成され、またそのクラスターは数年毎に再編成される。

こういったクラスターの更新に対応出来るよう、各室は細長い実験室を挟んで向かい合い配置されている。


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研究棟の特徴は、フラットバーを菱形のトラス状に組んだフレームに三角形のキャストガラスやスチールパネルをはめ込んだ「格子壁」である。
「格子壁」は建物全体を支える構造体であると同時に、各部屋相互の関係を調整する自由な開口率を持った間仕切り壁である。

また格子壁には研究上必要な実験機器やプレゼンテーションボードを自由に取りつけることもでき、家具のような役割ももっている。


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「格子壁」が細かいモジュールにより構成されていること、スチールパネルの配置が緩やかなグラデーションのようにレイアウトされていることによって、研究棟のファサードは、建物のスケールや部屋の機能から独立した、自由な表現を獲得している。


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☆☆☆GGのつぶやき
山本理顕設計工場の「公立はこだて未来大学」を読み解きつつ、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。



# by my8686 | 2024-03-28 18:18 | 気になる建築&空間 | Trackback

映画「デューン 砂の惑星 PART2」を観る

昨日、リアル世界で映画「デューン 砂の惑星 PART2」を観る。


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動機はふたつある。

ひとつは、キャンセルでフリータイムのできたワイフの映画鑑賞に乗じたもの。
もうひとつは、ワイフの観たい「ゴジラ-1.0」は、すでに鑑賞済のため時間調整のきく別の映画にしたという理由からだ。

「デューン 砂の惑星 PART2」は、1965年発表のフランク・ハーバートのSF小説の映画化作品。
第94回アカデミー賞で6部門に輝いたSFアドベンチャー大作に興味が湧いたというのも理由になる。


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SF小説「デューンシリーズ」は、史上最も売れたSF小説と言われている。
アメリカのSF情報誌「Locus」の20世紀SF長編小説部門のオールタイムベストで1位に選ばれている。

『デューン砂の惑星』は、様々な貴族が惑星を支配する封建的な星間社会の中の、遠い未来を舞台にしている。
この物語は、惑星アラキスの管理を一族から任された若きポール・アトレイデスの物語。

この惑星は人を寄せ付けない砂漠のような荒れ地だが、メランジ(スパイス)の唯一の供給地でもある。
メランジは、生命を延ばしたり、精神的な能力を高めたりする薬で、宇宙航行にも必要であり、多次元的な認識と先見性が要求される。

メランジはアラキスでしか生産できないため、アラキスを支配することは切望であり、危険な仕事である。
この物語では、政治、宗教、生態系、テクノロジー、人間の感情などが重層的に絡み合い、アラキスとそのスパイスの支配をめぐって帝国の各派が対立していく。


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ハーバートは5つの続編を書いた。
『デューン砂漠の救世主』、『デューン砂丘の子供たち』、『デューン砂漠の神皇帝』、『デューン砂漠の異端者』、『デューン砂丘の大聖堂』である。


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1986年にハーバートが亡くなった後、息子のブライアン・ハーバートと作家のケヴィン・J・アンダースンが1999年から10数本の小説を追加してシリーズを続けている。

この小説の映画化は、困難で複雑なものとして知られている。
1970年代には、カルト映画監督のアレハンドロ・ホドロフスキーが、この小説をもとにした映画を作ろうとしたが、3年間の開発期間を経て、製作費が増え続けたためにプロジェクトは中止された。



1984年には、デイヴィッド・リンチ監督による映画化作品『デューン/砂の惑星』が公開された。
しかし批評家からは否定的な評価を受けた。


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2021年10月21日にはドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による2度目の映画化『DUNE/デューン 砂の惑星』が公開され、批評家から概ね好意的な評価を得たという。


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アーサー・C・クラークは『デューン砂の惑星』を「ユニーク」と評し、「『指輪物語』以外にこれに匹敵するものを私は知らない」と書いている。
ロバート・A・ハインラインはこの小説を「力強く、説得力があり、最も独創的である」と評した。

シカゴ・トリビューン紙では「現代SFの記念碑の一つ」と評され、P・シュイラー・ミラーは「現代SFのランドマークの一つ...創造の驚くべき偉業」と評した。
ワシントン・ポスト紙は、この作品を「異星人社会の描写は、この分野のどの作家よりも完璧で、深く詳細に描かれている......アクションと哲学的な展望の両方で、物語を吸収している......。驚くべきSF現象だ」と評している。

アルジス・バドリスは、その想像上の設定の鮮やかさを称賛し、「時代は生きている。時間は生きている。
それは呼吸し、語り、ハーバートはそれを鼻孔で嗅いだ」と語った。
しかし彼は、この小説が「最後には平坦になり、尾を引いてしまう。... 真に効果的な悪役は、ただ単ににやけて溶けてしまい、獰猛な男も、狡猾な政治家も、シーレスも、この新しい救世主の前に屈してしまう」。

バドリスは、特にハーバートがポールの幼い息子を舞台袖で殺したことについて、「世界を救うことで精一杯で、幼い子供の悲鳴が聞こえないはずがない」と、感情的な影響が見られないと非難している。非現実的なSFを批判していたカール・セーガンは、1978年に『デューン砂の惑星』を「緊張感のある構成で、馴染みのない社会の細部が豊かに描かれていて、批判する前に私を引きずり込んでしまう」物語の一つとして挙げている。

ルイビル・タイムズ紙は、「生態学、宗教、政治、哲学を複雑に展開・分析したハーバートのこの宇宙の創造は、今でもSFにおける最高かつ重要な業績のひとつである」と評している。

ジョン・ミショーは、ロボットとコンピュータを架空の宇宙から排除したハーバートの「巧みな作者の決断」を賞賛している。
豊かな要素はすべてバランスが取れていて、もっともらしく、他の多くの劣悪な小説の特徴である、作り物の言語、作り物の習慣、無意味な歴史のパッチワークの連合体ではない。


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映画「デューン 砂の惑星 PART2」は、「メッセージ」「ブレードランナー2049」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化し、第94回アカデミー賞で6部門に輝いたSFアドベンチャー大作「DUNE デューン 砂の惑星」の続編。


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その惑星を制する者が全宇宙を制すると言われる砂の惑星デューンで繰り広げられたアトレイデス家とハルコンネン家の戦い。ハルコンネン家の陰謀により一族を滅ぼされたアトレイデス家の後継者ポールは、ついに反撃の狼煙を上げる。砂漠の民フレメンのチャニと心を通わせながら、救世主として民を率いていくポールだったが、宿敵ハルコンネン家の次期男爵フェイド=ラウサがデューンの新たな支配者として送り込まれてくる。

ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソンら前作のキャストに加え、「エルヴィス」のオースティン・バトラー、「ミッドサマー」のフローレンス・ピュー、「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」のレア・セドゥが新たに参加している。

オースティン・バトラーの冷徹な暴力的キャラクターが素晴らしい。


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☆☆☆GGのつぶやき
映画「デューン 砂の惑星 PART2」を観つつ、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。




# by my8686 | 2024-03-27 17:17 | たかが映画、されど映画 | Trackback

山本理顕設計工場の「横須賀美術館」を読み解く

山本理顕の2024年度プリツカー賞受賞が基因となり、あらためて山本の主要作品を読み解いている。

本日は、「横須賀美術館」を読み解いてみよう。
場所は、京急本線「浦賀駅」から車で約12分の横須賀市鴨居4丁目にある。


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「横須賀美術館」

横須賀市の観音崎公園内にある美術館。
横須賀市の市制100周年を記念し、2007年4月28日に開館。別館として谷内六郎館を併設している。


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駅などから遠い立地条件のため、滞在型の施設としてレストランや建物自体を充実させる事を目指して設計されている。
山本理顕は初めて美術館を手掛けたが、仙台メディアテークなどに携わった小野田泰明も設計に協力している。


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吹き抜けの展示ギャラリーは自然光を取り込むために鉄の内壁に穴が開けられ、塩害を防ぐためにガラスで包まれている。
これにより、外観がガラスに覆われた特徴的な構造となっている。


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ガラスと鉄板の入れ子構造からなる外観が特徴的だ。

単純ながら美しいガラスの箱の中に展示室と収蔵庫を配置し、高さを抑えることにより景観との調和にも配慮している。
前面にはワークショップ室やレストランが入る別棟を付け加え、広場と一体化して開放的に楽しめる空間も設けている。

美術を中心にさまざまな文化が楽しめる美術館活動を展開している。


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山本は次のように語る。

「小さな丸穴からは森の深い緑が見えます。晴れた日の夕方、丸穴から見る空の色は驚くほど濃い青色です。大きな丸穴の海を大きな貨物船が通過していきます。雨の日、寒い日、暑い日、長い時間、短い時間、時の変化を楽しむことができる美術館です」―山本理顕


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あらためて、それぞれのディテールを見てみよう。


「設計のプロセス」

横須賀美術館の設計者選定は、建築案ではなく実績や面接で選ぶQBS(資質評価)方式によって行い、山本理顕設計工場が選ばれた。

設計事務所、市の美術館開設準備室、建築課・設備課の担当者と、時によりさまざまな分野の専門家がゲストとして参加する「プロジェクト会議」と名付けられた月2回の打ち合わせを行い、設計をすすめている。


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何もないところから使う者とつくる者が一緒になって考え、市内施設での収蔵品展や建設予定地でのワークショップなどプレイベントの開催と平行してプランを練っていき、2006年7月に竣工している。


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「景観と一体化した外観」

美術館の敷地は、後ろ三方を森に囲まれ、北東が海に面している。
東京湾の眺望がすばらしく、「地形を利用して景観と建物とを一体化させたい」というのが、当初からのコンセプト。


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海側から見た時に背後の森への視線が抜けるよう、また、塩害対策からも、ボリュームの半分を地下に埋めた低層の建物ができあがっている。


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敷地の海側は、なだらかな斜面でそのまま海につながるようにし、地上に出ている建物部分は森に隠れるように建っている。


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また、山側から下りてきた散策者は、地続きで屋上広場へと誘われ、眺望を楽しんだ後、建物の中に自然に足が向くようなアプローチとなっている。


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「滞在型美術館としてのアクティビティ」

海側からのメインアプローチは、前面道路から建物正面を臨み、海の広場脇のスロープを上がり正面玄関からエントランスホールへ。


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一方、山側からのアプローチは、観音崎公園散策からの利用を念頭に、山の広場・屋上広場を経由してペントハウスから館内に入ることができるようになっている。


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二方向から出入りでき、通り抜けできるようにすることで、滞在型の美術館として、単に展覧会をみに来るだけでは終わらないアクティビティを目指している。


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観覧券を持っていない人でも気軽に利用できる無料の空間を多く設けている。


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また展覧会を目的に来た人も途中で外に出て、展示室に再入場できるようにしているので、周辺散策とあわせて楽しむことができる。


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「ガラスと鉄板のダブルスキン構造」

本館展示棟は、ガラスと鉄板によるダブルスキン(二重皮膜)で覆われている。
開口部の自由度と塩害対策を考えると、外側には透明なスキンが必要なので、外皮には錆や経年劣化が少ないガラスを採用。


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一方、内皮には溶接した鉄板を用いることによって、一枚の殻で全体を包み、そこに開けられた穴の大きさや数で光の量を調整している。


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このことにより、目地がない平滑な面が続き、独特の雰囲気を持つ内部空間ができあがっている。


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展示用には閉じた空間を用意しつつも、エントランスホールや吹抜のギャラリーでは自然光を自由に取り込み、開放感のある空間を実現させている。美術館が必要とする様々な光の状態を制御しているのがダブルスキン構造。


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「吹抜の回廊」

エントランスホールへのアプローチは、眼下に展示された作品を見ながら地下をまたぐブリッジを渡る、空間体験としても楽しいものとなっている。

内皮の内側は、壁と天井が連続して吹抜空間を覆う、鉄板という素材ならではの入り隅のない天蓋のような仕上げ。
この天蓋空間の中は、さらに入れ子状の構成になっており、真ん中に展示室・収蔵庫などが島状に配置されている。

また、この島状のボリュームと内皮との間のお堀のような空隙が、吹抜の回廊として地階所蔵品展示ギャラリーを構成している。
ここは、天井高が約12m、幅が南・西・東側で約4m、北側で7.5mの大空間であり、美術館で最も特徴的な空間となっている。


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「丸穴の開口部」

エントランスホールや吹抜の地階所蔵品展示ギャラリーでは、鉄板の天井や壁に丸穴を開けることで、光の分量や熱、視線をコントロールしている。直射光が入らない北側は、穴を大きくし数も多く配置。

一方、南側は穴が小さく数も少なくなっている。
これにより空間に明暗が生まれ、北側に行くにつれ、より明るい空間となっている。

また、1階企画展示室を移動していくと、展示室と展示室の間の「ギャラリー」と呼んでいるスペースから丸穴越しに海の景色を見ることができ、展示室間のちょっとした緩衝空間となっている。

他の丸穴からも周囲の緑や空の色などが見え、館内にいながら外の天気や自然を感じることができる。


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「ロゴマーク」

ロゴマークの海は、美術館の前に広がる東京湾の写真。

海の近くの美術館であることが一目見てわかるようなVI(ヴィジュアルアイデンティティ)を、ということで採用された。


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このVIは、美術館の表札とも言えるアプローチ脇の大きな館名看板にも使われている。
海と面し、海と対峙したこの美術館の、魅力的な立地条件と、海との一体感が考慮された建築的な特徴から、「海」そのものが美術館のアイデンティティとなり得ると考え、現地で撮影した海の写真を、そのままシンボルマークにしている。

通常では、写真表現はマーク等にはあまり用いられないが、実際の写真を使用したリアリティのある表現は、見る人にそのイメージを分かりやすく伝え、さらにそれを鮮明に記憶づけることができている。


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「ピクトグラム」

館内のサインは、特徴あるヒト型ピクトグラムが各場所への案内を担っている。

単に場所を示すだけではなく、階段をのぼる人や本を読む人をかたどるなどそこでの行動を表し、少しだけ人格があるようなあたたかみのあるものとなっている。


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山本は作品集「RIKEN YAMAMOTO 山本理顕の建築」のなかで、次のように記している。


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敷地はすでに美しい景観だった。
北側が海に面し、三方を山に囲まれた広大な公園の一部である。

こうした都心から離れた郊外型の美術館はどうあるべきなのか。
都心から離れてはいるけど、環境はいい。
この環境をどう利用すべきなのか。


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まず、はじめに横須賀市の美術館準備室の人たちとそういうことを何度も話しあった。

都心から離れた豊かな自然環境だからこそ成りたつ美術館。
われわれは話し合いを通してそれを、「滞在型美術館」と呼んだ。



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単に絵画を楽しむだけではなく、レストランで食事をしたり、ワークショップに参加したり、もちろん海で泳いだ帰りに立ち寄ることもできる場所である。敷地の特徴的な地形に埋め込まれ、ランドスケープと一体になった美術館である。


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塩害の影響が大きい敷地の条件を考慮し、レストランやワークショップルームといった外部に対して解放可能な諸室を外周部に配し、デリケートな展示・収蔵棟は巨大なシェルターで覆い、中央に配した。


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展示棟・収蔵棟のシェルターは、塩害に強いガラスで外側を覆い、その内側をさらに、薄い鉄板の被膜で覆った二重のシェルターにした。
鉄板は継ぎ目のない平滑な被膜をつくりだす。内側から見るとコーナーが曲面になっているので、どこが入り角なのかわからない。
より包まれた感覚を与えてくれる。


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その鉄板の被膜に外側の風景に応じた丸穴をあけた。
森の深い緑や海を行く貨物船がそれぞれの穴から見える。


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来館者はこの巨大なシェルターで覆われた内部空間を巡りながら、さまざまな体験を楽しむことができるわけである。
外から見ると環境の一部であるような、環境に対して開かれた美術館でけれども、中に入ると外とはまったく異質な空間を体験できる美術館である。


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☆☆☆GGのつぶやき
山本理顕設計工場の「横須賀美術館」を読み解きつつ、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。



# by my8686 | 2024-03-26 19:19 | 気になる建築&空間 | Trackback

山本理顕設計工場の「ナミックス・テクノコア」を読み解く

山本理顕の2024年度プリツカー賞受賞が基因となり、あらためて山本の主要作品を読み解いている。


本日は、「ナミックス・テクノコア」を読み解いてみよう。
場所は、新潟空港から東に車で約20分の新潟市北区島見町にある。


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「ナミックス・テクノコア」

敷地は日本海近くの工業団地の一角。


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新潟市に本社・工場を構える絶縁・導電材料メーカーの新研究所。


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計画するにあたり、企業シンボルになりうる建築の在り方を模索したという。


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全体は3層構造。


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1階の研究空間は広い床面積を必要とする多くの実験機器があるため、平面計画の自由度の高いグリッドプランとし、実験室、シンポジュウムなどが行われるマルチファンクションプラザなどが配されている。


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1階屋上の外部空間は設備層であると同時に緑化され社員の憩いの空間となっている。


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その上に事務室と社員食堂が浮いている。


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キノコ状のストラクチャーは、半径が最大で7mのキノコのような構造体を平面的に3つ集めることで、お互いにもたれあうシステムとなっている。


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キノコの支点部をピン接合とすることで水平力をキャンセルし、ピン先端部の円形断面をΦ200㎜と細くしている。


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そのため窓のない四角い箱の上にキノコの構造体が宙に浮いているように見える。


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山本理顕は某講演会で次のように語っている。

新潟の企業の研究所。ナミックスは元もと塗料を扱う企業だったが、現在では半導体の基板に配線を印刷したりするような、コンピュータに関係する研究も行っている。

キノコのようなストラクチャーが三つ重なって、ひとつのテーブルのような形をつくっている。そしてこのテーブルの上にまた別のテーブルをのせている。このように三角形のテーブルを単位にして連続させていき、雲のような形をつくっている。


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テーブルの足元がピン接合なので、モーメントがかからない。
なのでこのピン接合の部分は、非常に細くすることができた。これは構造のArup Japanが考えてくれた方法。


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一階部分の研究所はグリッド状のプランになっていて、その上にキノコがのっている。


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二階は屋上庭園で三階部分がオフィスとレストラン。
緑の屋上には樹木が所どころに植えられている。


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研究所は光を嫌うので一階にはあまり光が入らないようになっている。
スリットから廊下の部分にだけ光が入るようになっている。


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カーペットのパターンは我々でデザインした。
ある模様をひとつつくり、それを90度だとか180度回転させ、エッジを合わせていった。


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そうするとおもしろいランダムなパターンが現れた。


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オフィスの天井面には照明がつけられない。


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照明はすべて床から立ち上げている。


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☆☆☆GGのつぶやき
山本理顕設計工場の「ナミックス・テクノコア」を読み解きつつ、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。



# by my8686 | 2024-03-25 17:17 | 気になる建築&空間 | Trackback

山本理顕設計工場の「福生市庁舎」を読み解く

山本理顕の2024年度プリツカー賞受賞が基因となり、あらためて山本の主要作品を読み解いている。

本日は、「福生市庁舎」を読み解いてみよう。
場所は、JR福生駅から南に徒歩約8分の本町5にある。



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「福生市庁舎」

うねるマウンドの上に建てられた煉瓦タイル貼りのツインタワーの庁舎。


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都市の拠点としての建築として、プレキャストコンクリートでつくられた3マスで1層の外観は不思議なスケール感を誘発している。


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山本理顕は設計意図を次のように記している。


市庁舎にとって大切なのは、権威の象徴ではなく市民のための建物であるということ、もうひとつはシンボル性である。
その両方が実現されていることが市庁舎建築では重要であると思う。


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シンボル性を獲得するためにツインタワーにしようと思った。
同じ形のものがふたつ並んでいるということで、それはかなり日常の風景とは違って見えるはずである。


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福生市からはこの案は最初否定されたが、旧市役所跡への建て替えという合理性、周辺の多摩川の河岸段丘という地形、奥多摩の山々の風景を壊さず、市民が自由に入れる丘のような屋上庭園をつくるべきだと考えた。


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子どもたちや高齢者も自由に歩くことができる親しみのある場所。敷地のどこか一部が公園になるのではなく、敷地すべてが公園であるというようにしたかった。

シンボル性をもっていること、市民のための建物であることのふたつの要素を実現したかった。


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山本理顕は設計手法として次のように語っている。

「市庁舎の周辺は低い建物ばかりで、すぐそばの河川敷から見るととてもひろびろとした風景が広がっている。私たちはそこに巨大な建物をつくるというのはどうかと考え、新築する建物を半分に分けた。まず新築した片方のタワーへ市庁舎の機能が入居した後、もう片方のタワーをつくるという計画を提案した。」


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ふたつの建物の間を滑らかに繋いで、その上を市民公園のようなかたちで使えるようにしてある。
一階に巨大なフロアができ、これを「フォーラム」と呼び、いろいろな活動ができるようにしてある。


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「フォーラム」の上は丘の広場になっており、その上に行政棟と議会棟のツインタワーが立っている。


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丘の広場にはトップライトが開いていて、「フォーラム」に光を落としている。
これは夜になると、反対に「フォーラム」の中の明かりが丘の上に漏れてくる。


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建物の表面は、5センチ角のレンガタイルと7ミリの目地で構成されている。
目地の地の面積がかなり大きいので、単純なレンガ色とは少し違う見え方をしている。


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このレンガ色は、歩行床が壁と一体になっていること、そして市庁舎という公共建築が地域社会のシンボルであることを意識しているという。


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白い色や黒っぽい色も試してみたり、模型もつくってみたり、いろいろと試行錯誤をしたという。


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中にコアはあるが構造的には外壁だけで建物を支えている。


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柱は下が444ミリで、上の一番細いところで196ミリあり、一層分高くなるごとにレンガ一枚と目地の分だけ柱の見付けが細くなっている。


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構造は格子状のPC (プレキャストコンクリート)を現場打ちで繋いでいる。
ツインタワーなので、ひとつの型枠を次の建物の型枠にも使うことができ、そういう意味でPCはかなり効率がよかったという。


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外壁と同様に床もPC。最大で21.5メートルのT型のスラプを柱にのせて床を支えることで、スパンが21.5メートルの、柱が一本もない空間ができている。


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現場では、PCの柱を立て込んだあとにスラプをのせて、現場打ちで繋いだという。
スラプは21.5メートルもあるので、夜間にトラックで運び込んだという。


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柱は一階の「フォーラム」の中に垂直に落ちている。外壁から丘に続くレンガの皮膜は、スカートがめくれ上がったようになる。スカートの部分は塔の部分とエクスパンションで結合されている。


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「フォーラム」のカウンターのデザインは藤森泰司という若手の家具デザイナーが担当。
カウンターの仕切りは可動になっていて、左右に動かしたり着脱することができる。


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福生市は七夕祭りで有名な所なので、この丘の上が七夕祭りの時にかなり有効に使える。
市民の人たちが普段気軽に使うような場所になればと思っていると語る。


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memo


「福生市市政情報」

・新庁舎基本設計概要の基本的な考え方

1.防災拠点として機能できる高い耐震性と災害対策の設備を設けた庁舎とする。

2.低層部に市民関連窓口を配置するなど、ユニバーサルデザインとすることで、誰もが分りやすく利用しやすい庁舎とする。

3.敷地面積や周辺環境などを考え、建物の高さ、大きさを抑えて駐車場をできるだけ地下化して、周辺の建物や街並みに配慮した庁舎とする。

4.将来的な変化などに対応できる配置計画、ならびにフレキシビルな空間をもった庁舎とする。

5.機能性、効率性に重点を置き、建物全体で省エネルギーとなるよう計画するとともに、自然エネルギーを有効に使うなど、コストを比較する中で環境に配慮した庁舎とする。



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☆☆☆GGのつぶやき
山本理顕設計工場の「福生市庁舎」を読み解きつつ、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。




# by my8686 | 2024-03-24 16:54 | 気になる建築&空間 | Trackback