スウェーデン王立科学アカデミーは6日、今年のノーベル物理学賞を、東京大宇宙線研究所長の梶田隆章教授(56)ら2氏に贈ると発表した。
梶田さんは岐阜県にある装置「スーパーカミオカンデ」で素粒子ニュートリノを観測、「ニュートリノ振動」という現象を初めてとらえ、重さ(質量)がないとされていたニュートリノに重さがあることを証明した。
宇宙の成り立ちや物質の起源を解明するのに大きな影響を与えた。
ニュートリノはほかの物質とほとんど反応せず、地球をも通り抜ける。
三つの型があるが、素粒子物理学の「標準理論」ではいずれも重さがないとみなされていた。
もし重さがあれば、長距離を飛ぶ間に違う型に変身する「振動」という現象が起こるはずだと理論的に予想されていた。
梶田さんは、岐阜県・神岡鉱山の地下にあるスーパーカミオカンデで、宇宙から降り注ぐ宇宙線が地球の空気にぶつかって生じる大気ニュートリノを観測。
地球の裏側でできて地球を貫通してきたミュー型の大気ニュートリノの数が、神岡上空でできたものの半分であると突き止め、1998年に発表した。
大気ニュートリノはどこでもまんべんなく発生するので、「振動」がなければ同じ数だけ観測されるはず。
このデータは、地球の裏側から来る間にミュー型から他の型へ変身している決定的な証拠になり、ニュートリノに重さがあることが確実になった。
その後、「振動」を世界中で精密に調べる実験が行われ、素粒子物理学の大きな流れをつくった。
共同受賞者でカナダ・クイーンズ大名誉教授のアーサー・マクドナルド氏(72)は01年、同国にある観測装置で太陽から飛んでくる太陽ニュートリノでも「振動」があることを突き止めた。
梶田さんは会見で「この研究は何かすぐ役に立つものではないが、人類の知の地平線を拡大するようなもの。研究者の好奇心に従ってやっている。純粋科学にスポットを当ててもらいうれしい」と話した。
梶田さんは小柴さんの門下生。
スーパーカミオカンデでの観測は、08年夏に亡くなった戸塚洋二・東京大特別栄誉教授のもとで続けられた。
小柴さんの物理学賞は、前身の装置「カミオカンデ」で超新星から飛んできたニュートリノを87年に初めてとらえた功績だった。
今回の受賞で、日本が長年、世界のニュートリノ研究をリードしてきたことが改めて示された。
■「ニュートリノ振動」とはどんな現象なのか。
梶田隆章氏の寄稿文をさらに読んでみよう。
ニュートリノはこれ以上小さくすることのできない素粒子の一つです。
かつては重さ(質量)がないとされてきました。
もし、これを読んでいるあなたが小学生なら、こう覚えて下さい。
ニュートリノは三つの型があり、飛んでいるうちに型が変わります。
このことを「ニュートリノ振動」といいます。
この変身がニュートリノに重さがある証拠になるのです。
ニュートリノ振動が見つかった後、これを精密に調べる実験が世界に広がりました。
その中で、ニュートリノ振動を手がかりにすれば、なぜ宇宙に物質が存在するのかという謎に迫れる可能性が出てきました。
宇宙が誕生した時、通常の物質と一緒に、その反対の電荷を持つ反物質が同数生まれたはずです。
しかし、この二つが出会うとエネルギーを出して消えてしまいます。
なのに、物質だけは残って、私たちも現に存在しています。
この理由について、物理学者は、自然界のどこかに、物質と反物質の振る舞いに違いがあるはずだと考えています。
実際、クォークという素粒子では、物質と反物質にこうした違いが見つかりました。
でも、クォークの分だけでは宇宙の物質量を説明できないだろうと結論されています。
ニュートリノは特別な素粒子で、ニュートリノとその反物質の反ニュートリノでもこの違いがあります。
それが宇宙の物質の起源を説明するカギではないかと考えられるようになってきました。
これを確かめるには、さらに実験が必要です。
われわれ日本の研究者は、今後もこの分野で世界の研究をリードしていきたいと考えています。
(2015.10.07朝日新聞より抜粋)
☆☆☆やんジーのつぶやき
「自然界のどこかに、物質と反物質の振る舞いに違いがあるはずだ」という発想にいたる人は、本当に素晴らしい。
人類の知の地平線を拡大する研究にエールを送ろう。