昨日立冬を迎えた月曜日。
市川真人氏(批評家・早稲田大学准教授)のおもしろいコラムが目についた。
■直球も変化球も手渡しで
読者の質問に村上春樹が回答する、そんなサイトで生まれたQ&Aの一冊。
サイト閲覧は1億を超え、17日間に来た相談は3万7465、返信したのが3716通。
うち473を掲載した本書が「売れない」はずがない。
相談を送った人が記念に一冊買えば3万5千。
返信された人が自宅用と貸与用と保存用を各一冊で1万。
掲載された人が「村上春樹が質問に答えてくれたぜ!」と周囲の10人に配れば5千。
その合計だけで5万部だ。
そんな足し算も冗談ではない。
ネットの双方向性は「誰もが世界で一輪の花」的な平等と民主主義を、よくも悪くも実現した。
銀幕の高嶺の花より会えて握手できるアイドルへ。
一方的な価値の提示より被承認の実感重視は、文化・芸術や政治にとっての是非はともかく、社会の実態には合致する。
人生相談も例外ではなく、本書は言わば“全員の手紙を読みます・なるべく多くに答えます”という“村上春樹の握手会”だ。
本人も「楽しかった」と書く以上、参加した読者も儲かった版元も皆ハッピーだ。
……というだけなら、内輪の話で終わるが、本書には“大所高所からでは拒絶されがちな直球やシニカルな変化球を、手渡しの柔らかさで伝える”隠れた目的がのぞく。
例えばサザンオールスターズが「反日」と批判されたことについて著者は“一般論だけど、誰でもある意味・ある部分では自国批判の権利があるのでは?
成熟した国家は必ず自己批判を内包しますよね”的に答える。
違う意見の主が炎上させがちな話題でも、オープンなQ&Aの体裁なら「あなたにも答えますよ」というメタ・メッセージの握手が同時に伝わるわけで、言わば“自分と違う意見に狭量な現代でヘンなことを言うためのオブラート”となるスタイルなのだ。
やるなあ、村上さん。
[新潮社・1404円=2刷11万部]
(2015.11.08 朝日新聞より抜粋)
☆☆☆やんジーのつぶやき
一方的な価値の提示より被承認の実感重視。
なにやら86のおもしろさと似ているなぁ。
乗った全員がその楽しさを実感して納得する。
こんな本もありかな。