東日本大震災の発生から今日11日で5年を迎える。
避難生活を送る人はなお17万人以上に上り、恒久的な住まいの一つ、災害公営住宅の完成は被災3県でまだ半分にとどまるという。
政府が決めた集中復興期間は3月末で終わる。
警察庁は10日、震災の死者が全国で1万5894人、行方不明者は2561人と発表した。
震災後の体調悪化や自殺による震災関連死は3407人(復興庁まとめ、昨年9月末時点)。
岩手、宮城、福島3県のプレハブ仮設住宅に独り暮らしで、誰にもみとられず亡くなった「孤独死」は202人(警察庁まとめ、昨年末時点)に上ったという。
被災地が日常を取り戻すのはいまだ遠い。
さて、Geoffrey Bawa建築のスタディーは、今日が最後となる。
バワが建築家になることを決意したこの地「ルヌガンガ」。
その世界一美しい庭といわれる「ルヌガンガ」をみてみよう。
カーサ・ブルータス 2003年4月号で紹介された一文である。
バワが建築家になるのを決意したのは1948年、「ルヌガンガ」(塩の川)という土地との出会いによる。
イタリア永住の夢を捨て、スリランカに生涯のパラダイスを探そうとするも、理想の物件に巡り合えずあきらめかけた。
しかし、コロンボから60km離れた南西海岸沿いのベントタ地域に、オランダ時代にはシナモンガーデン、イギリス時代はゴムのプランテーションだった25エーカーのこの土地を見つける。
緩やかな丘陵を描き、川に囲まれたジャングルのサンクチュアリ。
それから50年以上、生涯にわたり少しずつ手を加えていった。
彼のロマンとポエジーが凝縮された庭、ルヌガンガは、イタリアのルネサンス式庭園と18世紀の英国式庭園を、スリランカの熱帯の生態系に合わせて再解釈した究極の庭だ。
敷地の制約も、時間の制限もなく、資金の余裕もあり、誰からも口出しされずに、建築をつくるという最高の贅沢。
それがルヌガンガである。
1948年に始まった工事は、創っては直し、創っては新たに加えの繰り返しを50年間続けたという。
理想郷とは、何ものにも縛られず、何ものからも自由ということであるならば、自分の快楽のために、ルールに縛られず、最適な形を求め続けたルヌガンガで、バワは、まさに、自身の理想郷をつくろうとした。
自然のままに見える地形や森も、土を切り崩しては盛るの繰り返しで生まれた、バワがバワのためにつくった理想の自然形。
しかし、それは、あくまでも彼にとっての理想郷。
第三者から見ると、他人の脳に入り込んだかのような戸惑いがある。
すごいとは思うけれど、いいのかどうかは、簡単に判断がつかない。
高台と、湖面沿いの平地から成る地形全体が、回遊式の庭園になっている
イタリアのバロック庭園と、イギリス式風景庭園を組み合わせたようなつくりとなっている。
高低差による視線の高さの変化、豊かなランドスケープの中をさまよい動く園路による千変万化の眺望、木々のつくる明暗のリズム、開いたり閉じたりを繰り返す視界、それらが、絶え間なく移ろう風景を生む。
その間に点在する、東屋、園亭をはじめとする建築も、それぞれ際立ったデザインで、視覚的ポイントとして、メリハリを生む。
趣向を凝らした園亭建築は、古今東西にある。
ルヌガンガの建築を、園亭としてひとくくりにすれば、庭園の一要素と説明が付きそうだが、いくつかは、点景としての、単なるオブジェの役割を超え、具体的な機能を想定した本格的建築となっている。
母屋、ゲストウィングなど、高台の中央に立つ建築。
さまざまなボキャブラリーが、複雑に豊かに組み合わされている。
ゲストウィングは、大きな吹抜と張り出しを持つ静かな建築。
意図的に色を剥落とし、過ぎ去った時間を空間に定着させようとしたようである。
4方向に異なる形式の窓を持ち、そこから見える風景の質も違えている。
それを背景に、コレクションを飾ったサロンが1階に、低い天井の寝室が2階に置かれている。
母屋は、いちばんの高台に立つ建築。
小さな部分が連結して一つになる間取りのため、庭を動くに連れて、同じ建築とは気づかないほど、いろいろな外観が現れる。
全体を一度に見渡すポイントがないため、大きく感じないが、実際には、住宅として十分な広さを有している。
内部は、部分的に公開され、コロニアルのエッセンスを残したモダンな空間となっている。
ギャラリーは、崖状の地形をわざわざ選んだのか、地形までも意図的につくったかは、分からない。
崖の上の広間と、一層ほど低い広間を、階段と段状のフロアーが結ぶ。
北欧的な静かでシンプルなモダニズムの空間が、階段を下りると地中海的な明るい空間に反転する。
☆☆☆やんジーのつぶやき
川に囲まれたジャングルのサンクチュアリに理想郷を創りだす。
官能のおもむくまま生きたバウの生き様にあらためて感服する。
完全リタイア後は、自宅の小さな前庭にコンパクトながらも理想郷をつくりたいと官能が反応した。