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中東安定への道 世界銀行副総裁に問う

土曜休日の夕刻、気になるインタヴュー記事をあらためて読み直してみよう。


「アラブの春」で一時は民主化への期待が高まった中東・北アフリカ地域で、混乱が続いている。
人々の生活が依然として苦しいことが背景だ。
紛争解決の土台づくりを経済面から進めるため、世界銀行が新戦略「平和と安定のための経済・社会包摂」に力を入れている。
担当の副総裁ハフェズ・ガネム氏に聞いた。




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――「アラブの春」で独裁政権が倒れ、民主化への期待が高まりました。だが実際はそうなりませんでした。

(アラブの春が本格化した)2011年の時点で我々はやや楽観的過ぎました。
アラブ世界には民主主義的な基盤や文化が弱かったのに、当時は民主主義と繁栄を非常に早く達成できると考えていたのです。
逆に今日の状況について、私たちは悲観的過ぎる、と考えています。
アラブ世界の変革は直線的ではない。
アップダウンがある。それでも変革の過程は始まり、止まることはありません。


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――あのとき、世銀が別のやり方で関与すれば、今の中東とは違うものになっていましたか。

『アラブの春』後、指導者たちは政治と宗教の問題に焦点を当てすぎ、経済への注目が不十分だったと感じています。
エジプトの若者が叫んでいたのはパン、自由、社会的公正、そして尊厳です。
自由と尊厳は政治的な要求で多くの議論がありましたが、パンと社会的公正の議論はあまりなかった。
もし、この点にもっと焦点を当てていれば、変革はより容易だったかもしれません。



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――だからこそ世銀にとっても新たな戦略が必要なのですね。

世銀やJICA(日本の国際協力機構)、ほかの援助機関が中東・北アフリカ地域で実施してきた多くの優れた案件がある半面、過去数年、全体としての成果はそれほど出ていません。
なぜか。
暴力や不安定といったものがあるからです。
内戦下のイラク、シリア、イエメンで経済開発することはできません。
チュニジアなどテロの影響を受けたところでは観光業や投資が低下する。
成長が鈍化して失業が増える。
結局、地域を発展させたいなら不安定と暴力の問題に取り組まないといけない。



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――問題の根源に触れていこうということですね。

その通りです。
では、平和と安定に寄与するために我々に何ができるのか。
世銀は経済を扱う機関で、政治や治安面について実現するための権限も知識もありません。
我々がやるべきことはまず経済、社会的な根本原因に取り組むための戦略をつくることだという結論に至ったのです。



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――具体的には。

若者たちが社会から疎外されていると感じれば、それは暴力の原因になりうる。
上エジプト(南部)やチュニジア西部など、境遇に恵まれていないと感じる地域が至るところにある。
イラクやシリアで「イスラム国」(IS)が勢いづくのはこれらの国でスンニ派のコミュニティー(共同体)が軽視されていることの反映だという議論があります。
新戦略の核心は、平和と安定に世銀が貢献しよう、そのためには経済的、社会的要因を見極め、それを様々なパートナー(連携相手)とともに取り組んでいく必要がある、ということなのです。



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――内戦下のイラクやシリアなどでは国家のない状態の地域も多く、パートナーとなる「受け入れ国」が見当たりません。どうやって人々に届けるのですか。

脆弱な状況、あるいは紛争に対処しながら、そうした状況の中で開発する。
21世紀において、この分野で働く我々全員にとっての重要な課題です。
例えば我々がイラクで実施した最後の案件はISから解放された地域の復興案件でした。
北部にあり、我々の職員が現地に行って監督することは、不可能です。
代わりに国連機関や非政府組織(NGO)などに実施を手伝ってもらいました。



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――パートナーは「国」だけではないのですね。ISの支配地域にも支援が必要な人がいます。そうした人々も受益できますか。

それは難しい。
我々自身もしくは、信頼できる人道支援組織が行けるところでないと実施できません。
贈与でも融資でも資金の使い道をしっかりと監督する責任があります。
我々が経済的、社会的な開発を支援することで、(ほかの中東地域の)若者がISに行きたいと思えないようにしたい。
我々が活動できるのはトルコ、レバノン、ヨルダンなど国外に出た500万人近い難民を支援することです。
こうした国々と協力し、支援しています。



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――新戦略は、国連難民高等弁務官だった緒方貞子さんが提唱する「人間の安全保障」の考え方が反映されたものともいえますね。

その通りです。今回の来日時に緒方さんに会い、新戦略について説明しました。
強調したいのは、今日の世界は経済的、人道的、文化的な関係で相互に結びついているという点です。
いかなる国にとっても、どこかで起きたことについて全く無関係だなどということはありえない。
遅かれ早かれ我々全員に影響する。
だからこそ人災であれ、天災であれ、力を合わせて協力し、人道的な問題に対処する必要があります。



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――人道支援の場合、投入した資金を回収するのは難しい面もあると思います。支援は利息付きの融資(ローン)ですか。

所得水準や返済能力などを見て、独自のルールで決めます。
例えば、イエメンでは内戦前から貧困度に照らして贈与(グラント)のみ実施してきました。
ヨルダンは中所得国で返済能力があるため、融資を実施していますが、難民を受け入れることで追加的な負担が生じている。
ほかの支援国・機関との間で、(供与条件が緩和された)譲許的融資をどう実施するか協議しています。

今日では、人道支援と開発との区別があいまいになっています。
難民に短期的に人道支援をするにせよ、3~4年もそこにとどまれば、学校や病院などを建設して開発する必要が出てくる。
水道や道路も必要です。



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――中東地域の安定は世界全体にとっても重要です。

中東が不安定になれば、原油価格に影響し、世界経済にも影響する。
テロが起きれば欧州、日本、米国にも影響を及ぼします。
つまり、中東の平和と安定は『地球規模の公共財』と呼ぶべきものなのです。


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――日本政府の役割や世銀との連携についてどう考えますか。

日本は中東・北アフリカ地域で独自の役割を果たせると思います。
石油エネルギーの8割以上をこの地域から輸入しており、地域の安定が重要です。
日本はこの地域で植民地主義や歴史的なかかわりがなく、中立的な存在として受け止められています。
アラブの人々は日本が過去60年の間に成長を成し遂げたことに大いなる敬意を持っています。
だからこそ、日本の言動について人々は極めて真剣に受け止め、耳を傾けるのです。


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Hafez Ghanem
1957年、エジプト生まれ。
83年に入行し、15年から現職。
米ブルッキングス研究所シニアフェロー。




■取材を終えて

内戦などで国家機能を失った地域が中東に広がるなか、パートナー(連携相手)を「国」から国際機関やNGOに広げ、人道支援と開発を並行して進める世銀の新戦略は経済、社会面から「テロ対策」に取り組む意欲的なアプローチだ。
融資と引き換えに「財政引き締め」を途上国に突きつけ、いわば「憎まれ役」を演じてきた世銀のこれまでの姿から見ると、副総裁の発言はまるで人道支援団体のようだ。
だが、それは理想主義から来るものではない。
援助の現場を踏まえ、不安定と暴力をなくさない限り経済発展はありえないと言い切る副総裁の発言は、むしろ現実主義に基づくものだろう。

新戦略を進める上で副総裁は、日本を「重要なパートナー」とみる。
中東で軍事力を行使したことのない日本だからこそ果たせる役割は何か。
軍事面での「貢献」論議に陥りがちな今こそ、日本の強みを生かした経済的、社会的な支援のあり方について議論を深める時だ。

(2016.03.26朝日新聞より抜粋)









☆☆☆やんジーのつぶやき
あの敗戦から日本が過去60年の間にここまで成長してきたその軌跡に世界が瞠目している。
その復興に命を賭けて日本国とその国民の平和を願った天皇の存在は大きい。
新戦略を進める上で日本を「重要なパートナー」とみる世銀副総裁。
中東で軍事力を行使したことのない日本だからこそ果たせる役割とは何か。
経済支援だけで済む話ではない。



































































































by my8686 | 2016-03-26 19:09 | ヘビーな話は、謹んで | Trackback | Comments(0)