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小さな建築「KXK」

4月5日火曜日、外気温10℃やや肌寒い朝。
朝刊を斜め読みするなかで、棘のように官能につきささった社説がある。


■異次元緩和3年 限界認め、軌道修正を
日本銀行が黒田東彦総裁のもとで「異次元」の金融緩和を始めてから3年。
2年間の「短期決戦」として始まったはずの政策は、2年がすぎ、3年たっても、掲げてきた2%のインフレ目標を達成できていない。

日銀が期限を次々と延ばす間に、緩和に伴う副作用が目につき始め、抱えるリスクはじわじわと増している。
日銀が実行すべきなのは緩和の強化ではなく、軌道修正を図ることだ。

安倍政権の経済政策「アベノミクス」は、(1)大胆な金融緩和(2)機動的な財政出動(3)民間投資を促す成長戦略の「3本の矢」からなる。
政権は介護や子育て政策の充実に力点を置く「新3本の矢」を打ち出したが、政策の骨格は変わっていない。

当初の2、3本目の矢は目新しいものではない。
多くの政権が景気対策で財政を膨らませ、成長戦略も練ってきた。
1本目の異次元緩和こそが異色でありアベノミクスの柱と言える。

日銀が大量の国債を買いあげ、巨額のマネーを市場に注ぎ込む。そうして長期金利を歴史的な低水準に引き下げる。
安倍政権は日銀にそんな大胆な金融緩和を行わせようと黒田氏を日銀総裁に選んだ。
「デフレ脱却」を旗印に、ただちに国民負担が生じるわけではない金融政策に寄りかかる構図である。

安倍政権は補正予算編成を含む経済対策を検討し始め、10%への消費増税の再延期論もくすぶる。
日銀による国債の買い支えがずっと続くことを前提にしたかのような財政運営は無責任である。

将来の世代も見すえ、持続可能な財政へと再建していく。
同時に民間の投資や消費が引っぱる日本経済の発展をめざし、地道に構造改革に取り組む。
それが政権の仕事だろう。

そう促すためにも、日銀は異次元緩和の限界について、もっと政権に対して説明する必要がある。
それが、「緩和強化」一辺倒の路線を修正する第一歩となる。





気持ちを鎮めつつ本日も、隈研吾の小さな建築「KXK(2005年)」をみてみよう。



■隈研吾のプレゼンテーションより

原美術館の庭に建てた「KXK(2005年)」という温度で形の変わるパピリオン。
形状記憶合金の針金でつくられている。




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形状記情合金とは、Yシャツの襟などに使われていますが、温度で形が変化する金属です。
これは、慶應大学で教えていた頃に、構造の北川良和先生の研究室で、形状記憶合金を鉄骨のジョイントに使うという研究をして、そこで形状記憶合金が建築にも使えると、思い付いたのです。
地震でジョイントが壊れたとしても、形状記憶合金を使うと、暖めてそのジョイント部を元に戻すことができる、というのが北川研究室の研究で、そこからこの「KXK」の仕組みを思い付きました。



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素材の形状記壊合金は、直径が30センチくらい、太さが2ミリほどのリングですから、そのままだとふにゃふにゃです。
温度が変わると、生物的にゆっくりと形が変わっていくのですね。
これらをたくさん繋いで、球形のパピリオンをつくりました。
つくり方として発泡スチロールで球をつくり、それを型としてその上に針金を張って、全体をつくっていきました。





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立川基地の隣にある飛行機関連の仕事をしている小さな町工場で制作しました。
この針金でできた球の上に、形の変化に追従できるようなやわらかなエパシートというメッシュをかぶせ、完成です。





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温度設定は、冷えると形が変わるようにしたので、少し寒い日に訪れると、垂れてくるようにゆっくりと形が変化してくるのが見られます。
小さい「粒」でできているというのが、生物のおもしろいところです。





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メタボリズムとも少し異なる考え方です。
メタボリズムは新陳代謝するということですよね。
メタボリズムの時代は、私もちょうど建築に興味を持ち始めた頃で、テレビで黒川紀章さんが、新陳代謝しないから都市はだめになるのだ、と解説されていたのを見て、まだ小学生ながら、すごいおもしろいことを言う人がいるなと感じたのを覚えています。




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しかし、メタボリズムの思想でつくられたものは、有名なものに「中銀カプセルタワー(1972年)」がありますが、新陳代謝していく単位がカプセルサイズなので、大きすぎて新陳代謝できず、実際にはカプセルは一度も交換されていません。
福岡伸一さんという生物学者も、メタボリズムの最大の間違いは、大きさを間違えたことだと言っています。
「中銀カプセルタワー」のカプセルを実際に交換するとなると、大型クレーンを持ってきて、吊り上げて…とかなり手間がかかってしまいます。





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私が考えている小さな柔らかい建築とは、もしかしたら、メ夕ボリズムの「粒」がもっと小さくなったものなのではないかと思います。
生物で言う「粒」は、基本的に細胞となります。
細胞という「粒」でできているので、知らないうちに新陳代謝できている。





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これまでのメタボリズムは、簡単に言うと臓器移植みたいなものなので、どうしても大ごとになってしまう。
しかし、「粒」が細胞単位だと、知らないうちにどんどん新陳代謝して、ある期間で体の細胞すべてが完全に新しい細胞に取り替えられるのです。





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何ヶ月前のあなたはもうここにいない、というのは養老孟司先生がよくおっしゃる冗談ですが、実は、「粒」が小さいとそれが可能だということに、自分はトライしているのです。










☆☆☆やんジーのつぶやき
1970年代、スター建築家だった黒川紀章に憧れたものだ。
まさに紀章マジックといってもよかった。
「中銀カプセルタワー」の先進性に官能を揺るがした学生時代。
当時発表された『METABOLISM/1960 - 都市への提案』は、熱い日本の将来を見据えていた。
祭りの後の平成の今、あらためて振り返るのも一興。














































































by my8686 | 2016-04-05 10:49 | 挑発する建築&空間 | Trackback | Comments(0)