6月9日の米株式市場でアマゾンの時価総額が前日に比べ一瞬で4兆4000億円吹き飛んだという。
米連邦準備理事会(FRB)の再利上げが確実視されるなか、アマゾン・ドット・コムや旧グーグルといった時価総額が巨大な米IT株に試練が近づいている。
あらためて、この記事を読み解いてみよう。
■米IT8社の時価総額340兆円
一瞬で吹き飛んだ4兆4000億円は、8日時点の時価総額の8%、武田薬品工業1社分に相当する。すぐに半分以上を取り戻したが、「フラッシュ・クラッシュ」と大騒ぎになった。
証券会社のリポートを発端としたアップルの新型スマートフォンの発売延期観測がきっかけとされるが、「水鳥の羽音」にコンピューターのアルゴリズムが反応し、IT株やハイテク株全般に売りが出たのが真相のようだ。
QUICK・ファクトセットによると、フェイスブックやアマゾン、ネットフリックス、旧グーグルといったいわゆる「FANG」にマイクロソフト、アップル、エヌビディア、テスラの「MANT」を加えたITの巨人8社の時価総額は合計3兆1000億ドル(約342兆円)。
世界全体の時価総額の約4%を占めるまでになっている。うまみのある投資先が少なくなり、世界中のファンドマネジャーが殺到した結果だという。
似たような投資環境は40年以上前にもあった。成長株50銘柄にマネーが集中した1970年代初頭のニフティ・フィフティ相場である。コカ・コーラやIBM、ファイザー、ポラロイドなどは人気の裏返しでPERが跳ね上がった。
ジェレミー・シーゲル著「株式投資」によれば、「ニフティ・フィフティ銘柄の平均PERは41.9倍でS&P500種の倍以上」だったという。
■群集心理の裏に運用競争
金利上昇とともにニフティ銘柄は暴落した。フェデラル・ファンド金利は72年2月の3.29%を底に、73年7月には10.4%まで上昇した。売りは全般に広がり、その後、米国では株式投資を敬遠する時代が80年まで続いた。
ニフティ相場の原因を群集心理の一言では片づけられない。背景には年金マネーの膨張と運用競争の激化、そして証券分析が高度化し、市場のゆがみが少なくなった結果、ファンドマネジャーが市場平均には勝てないという「効率的市場仮説」の登場がある。だから誰もが上がった銘柄を買う、買うから上がるというバブルを生んだ。現代と通じる点である。
70年代との違いはある。低成長で新市場の芽が少なくなり、一部の企業がテクノロジーや利益を独占する寡占化が「FANG・MANT」人気を演出しているという側面である。
そうであれば、潜在成長率の回復がみられない限り、フラッシュ・クラッシュは買いの好機と考える投資家も少なくはなかろう。
ただし選別眼は必要で、ニフティバブル崩壊以降、ファイザーは米製薬最大手に成長したのに対し、ポラロイドは市場から撤退した。過去1年以上に渡り、ナスダック総合指数が100ポイント以上下落した日は、ほぼ確実に米長期金利が上昇した日だった。
予想PERはアマゾンが147倍、ネットフリックスは151倍だ。近づくFRBの利上げは、IT株をふるいにかける儀式になるかもしれない。
☆☆☆やんジーのつぶやき
栄枯趨勢。どの業界にも構造崩壊の時は必ずやって来る。
そして、フラッシュ・クラッシュもある日突然やって来る。
PERに必要以上踊らされぬことが寛容なり。