かたくなに沈黙を守るディラン、ノーベル賞受賞辞退の憶測もとびかっている。
「連絡断念」の報を受けてこんなブッチャケツイーターも報じられている。
「『くれる?何?ノーベル賞?俺に?いらん』 事務局の偉そうな態度にカチンときたんだろうなボブ・ディラン」
「反戦のシンボルだった歌手が爆弾製造会社創業者が作った賞を喜ぶわけがない。ビール会社かハンバーガー会社の賞なら受けとると思うけど・・・」
ディラン自身、かなりの違和感を感じたに違いない。その違和感が時間の経つうちに「おちょくられ」感へと変貌し官能が沸騰してしまったか。
あらためて、ディランの受賞理由をもう一度読みなおしてみよう。
「偉大なるアメリカ音楽の伝統の中で新たな詩的表現を生み出した功績による」ものだという。
もちろん、ディランの作品は文学の世界でいうところの詩とはいえず、頌詩(歌われる詩)でもない。彼は作詞作曲家であり物語作家である。彼の作品は電気を使った騒音であり、劇作家や脚本家が従来行っていた方法を、彼の生きる時代に新たに発明されたメディア(アンプ、マイク、レコーディングスタジオ、ラジオ)を利用して実現した文学的パフォーマンスである。
それは愛であり、略奪であり、メインストリートで火をおこし、銃を撃ちまくる。
史上最高のロックンロールの伝記『ボブ・ディラン自伝(原題:Chronicles)』は受賞を逃した。難解でぶっ飛んだ有名な小説『タランチュラ(原題:Tarantula)』も受賞を逃した。彼の歌詞が賞をもらったこともない。彼の歌詞カードには「don’t tie no bows」を「don’t try No-Doz」と記述するなど多くの誤植があるが、ディランは敢えて放置している。
ディラン自身そう多くの本を書いていないが、彼の楽曲はシェイクスピアと同じ「熱く煮えたぎる血」から生まれたものである。
ディランは、自分の楽曲が難解だろうがコミカルなものだろうが、言葉だけを取り出してまとめることはできないことを知っている。彼は歌詞を書きながら途中で心変わりすることが多い。言葉の途中で変化をつけることもある。
2004年に彼自身が解説している。「知っている曲を選んで、まず頭の中でその曲を流してみるんだ。それが俺流の瞑想さ。壁のひびを見つめながら集中したり、羊や天使やお金なんかを数える人もいるだろう。いずれにしろ、それらはすべてリラックスする手段として有効なことが証明されている。俺はそんなやり方で瞑想できない。曲がなければ瞑想できないんだ」。そのように音楽を頭の中で流しながら彼は新しい歌詞を創り出している。
「例えば、車の運転中やおしゃべりの最中やぼうっとしながら、ボブ・ノランの『Tumbling Tumbleweeds』を繰り返し頭の中で再生するんだ。目の前の相手は俺と会話が成り立っていると思っているが、実はそうではない。俺は頭の中で流れている曲の方に集中しているのさ。ある時点で言葉が置き換わっていき、そこから俺は曲を作り始めるんだ」。
ノーベル賞の選考委員はこの点を正しく評価した。ディランの現在進行中のアメリカ音楽における業績は、この最も派手なやり方を世に知らしめる文学的な偉業である。
ノーベル文学賞を授与されるということは、またスキャンダラスな国際的出来事が彼の歴史に刻まれることになるが、称えられるべき事実である。
「俺の楽曲は何もない霞の中から現れたものではない」と、ディランは2015年のMusiCaresでの伝説的なスピーチで語っている。
スピーチの中で彼は、フォーク、ブルース、カントリー音楽における自分自身のルーツを明かした。「すべての楽曲はつながっている。ごまかされないで。いろいろなやり方でいろいろなドアを開けただけだ」。
ディランの開けたドアを我々は通り抜けてきた。ディランが60年以上に渡って築いてきた集大成がここにある。そして今後60年も。
さて、引き続きボブ・ディランの曲から「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」を聴いてみよう。
1965年にリリース。歌詞の過激な内容が、当時のヒッピーたちに熱狂的に迎えられた。
Subterranean Homesick Blues : Bob Dylan
ジョニーは地下室で
ヤクを調合
ぼくは道端で
政治を考える
トレンチコートの男は
会社を首になって
セキが出るのに
金がない
よく聞け坊や
お前も懲りずに
同じようなことを
してはいけない
まともな友達を
見つけるんだぞ
刑務所の中では
貧相なやつが
せめて11ドルの
実入りを欲しがってる
マギーは走る
真っ黒な顔で
暑さで草が枯れ
電話が盗聴
されてるといいながら
五月になったら
検察の呼び出しに
抗議しなきゃ
よく聞け坊や
やったことを悔やむな
思い通りにやれ
遠慮なんかいらない
好きなようにやるんだ
鼻をたらさないように
着物を汚さないように
そんなことどうでもいい
風向きを人に
聞く必要はない
病気になってもじきに直る
なにうまくいくさ
電話が通じなくても
なにかいいことがあったら
そいつをものにしろよ
戻れたら点字を書けよ
刑務所はたくさんだ
軍隊のほうがましだよ
よく聞け坊や
打ちのめされても
がっかりするなよ
要領よくやれば
楽しくやれるさ
女の子だって
そうして楽しんでるんだ
人のことを気にするなら
パーキングメーターを気にしろよ
生まれたからには
楽しくやりたいさ
まともなものを着て
ひとかどに見られて
みんなとうまくやって
まずいことはつつしみ
学校をでれば
紳士淑女さ
よく聞け坊や
そうかもしれないけど
マンホールの穴に
落ちてみるのもいいものさ
裸足のほうがいい
サンダルなんか履かず
人の迷惑をかけず
ガムをかみながら
気ままにやろうよ
人の目は気にするな
Subterranean Homesick Blues : Bob Dylan
Johnny's in the basement
Mixing up the medicine
I'm on the pavement
Thinking about the government
The man in the trench coat
Badge out, laid off
Says he's got a bad cough
Wants to get it paid off
Look out kid
It's somethin' you did
God knows when
But you're doin' it again
You better duck down the alley way
Lookin' for a new friend
The man in the coon-skin cap
In the big pen
Wants eleven dollar bills
You only got ten
Maggie comes fleet foot
Face full of black soot
Talkin' that the heat put
Plants in the bed but
The phone's tapped anyway
Maggie says that many say
They must bust in early May
Orders from the D. A.
Look out kid
Don't matter what you did
Walk on your tip toes
Don't try "No Doz"
Better stay away from those
That carry around a fire hose
Keep a clean nose
Watch the plain clothes
You don't need a weather man
To know which way the wind blows
Get sick, get well
Hang around a ink well
Ring bell, hard to tell
If anything is goin' to sell
Try hard, get barred
Get back, write braille
Get jailed, jump bail
Join the army, if you fail
Look out kid
You're gonna get hit
But users, cheaters
Six-time losers
Hang around the theaters
Girl by the whirlpool
Lookin' for a new fool
Don't follow leaders
Watch the parkin' meters
Ah get born, keep warm
Short pants, romance, learn to dance
Get dressed, get blessed
Try to be a success
Please her, please him, buy gifts
Don't steal, don't lift
Twenty years of schoolin'
And they put you on the day shift
Look out kid
They keep it all hid
Better jump down a manhole
Light yourself a candle
Don't wear sandals
Try to avoid the scandals
Don't wanna be a bum
You better chew gum
The pump don't work
'Cause the vandals took the handles
☆☆☆やんジーのつぶやき
伝統と制度の破壊の果に今の混沌があるとすれば、いったいあの激動は、なんだったのだろうか。
そこに意味などない。意味など問わない。ただ、実存した事実があるのみ。
人は生きるために生まれ、死にむかって生き、生まれ変わるために死ぬ。
そんなことどうでもいい、風向きを人に聞く必要はない。
すべての真実は、風のみ知っている。