「一九八四年」の現実味 仏歴史家フランソワ・デュルペールのインタビューを読み解く

フランス大統領選で右翼・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏が5月7日の決選投票に進む。

フランスでは「ルペン大統領」を2年前に描いた漫画「ラ・プレジダント(女性大統領)」も話題だという。
トランプ米大統領誕生も事前に描き、現状をジョージ・オーウェルの「一九八四年」になぞらえる漫画原作者のインタビューを読み解いてみよう。




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 ――2年前に出版した第1巻で、「2017年5月7日にマリーヌ・ルペン大統領が誕生する」と予言しました。そのルペン氏が実際の大統領選の第1回投票で2位になり、決選投票に進みます。

「もともとルペン氏が勝ち進む条件は整っていました。グローバル化が生んだ格差で既成政治への不満が高まっていた。さらに右派の大政党の候補が不祥事で支持者を失い、左派も内部分裂していました。『2位』に安堵してルペン不支持層の投票率が下がれば、当選の可能性は十分にあります」

「もちろん私はこの筋書きを望んでいるわけではありません。でも少し前まで仏メディアや専門家に『ルペン氏は大統領にはなるまい』との思い込みが強く、私には不思議でした。近年、地方選で躍進し、14年の欧州議会選では国民戦線が最多票を得たのに、ルペン氏には『ガラスの天井』があるような言いぶりです。根拠のない楽観でも大勢に膾炙するうちに既成事実化してしまう。米国での『トランプ氏が大統領になるはずがない』との言説と似ています」



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 ――歴史研究者なのに、なぜ漫画の原作を担当したのですか。

「どうすれば人々の目を開かせることができるか。論文や未来小説を書くことも考えましたが、出版社と話し、『バンド・デシネ(仏語圏の漫画)で行こう』となりました。過去の分析に基づいて将来を洞察する、過ぎ去った時間でなく、今後過ぎ去る時間を考えるのも歴史研究者の仕事です」

「ルペン氏がエリゼ宮(大統領府)で、前任のオランド氏から大統領権限を引き継ぐ厳粛な手続きにのぞんでいる――。そうしたリアルなイメージを示して初めて、起こりうる事態の真の意味が理解されると考えたのです」


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 ――フランスでは「極右」と形容される国民戦線が、これほど支持されるのはなぜでしょうか。

「ルペン氏の父ジャンマリ・ルペン氏が1972年に創設した国民戦線は、45年の歴史を持つ成熟した政党です。地方では市長ポストを得るなど、思想が過激なだけではない『統治できる政党』との評価を得つつあるのも事実です」

「経済のグローバル化で(貧困へと)転落する人々が現実にいます。自分もそうなるのではないかとの不安が広がっています。その守り手として、国家や民族のアイデンティティーにすがる気持ちが強まっている。国民戦線が主張する『国境を閉じよう』という解決策が魅力的に映るのです」

「かつてフランスの高校は異なる宗教や肌の色の仲間と出会う場でした。近年、民族や宗教に基づく分断が深まり、白人ばかり、移民系の生徒ばかりという高校が増えています。異なるアイデンティティーとの共存を、豊かさではなく負担としか見られない意識の広がりは憂うべき現象です」

「党首を父親から引き継いだマリーヌ・ルペン氏は党の穏健化に成功しました。反ユダヤ主義的な言説を封印し、分配重視政策で左派支持層にも侵食している。『ルペン』の言葉が醸す急進右翼イメージが昔からの支持層をつなぎとめる一方、『マリーヌ』というソフトな響きが支持層の幅を広げたといっていいでしょう」

「今回の大統領選で政治の対立軸は、かつての『右か左か』から『固有のアイデンティティーにこだわるか、外の世界につながっていくか』に変わりました。歴史的な節目といえます」



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――ルペン氏が当選したら、フランスはどうなるのでしょうか。

「漫画作品の中で描いたストーリーはこうです。大統領は治安強化や移民対策に着手します。治安要員を大幅に増員し、滞在期限が切れた外国人の一斉拘束や国外追放に乗り出します。さらに欧州連合(EU)の共通通貨ユーロから離脱し、旧通貨フランを復活させます。国家主権を最重視する立場から、北大西洋条約機構(NATO)からも脱退します」



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 ――穏健化路線を進めて支持を拡大してきた政党が、果たしてそこまでやるでしょうか。

「別に空想物語を描いたわけではありません。国民戦線が公表していた政策を実行に移していけばこうなる、という展開を淡々と示しただけです。議会の動向など、現実の政治ではこれと異なる動きも起きるでしょう」

「ルペン氏の公約を注意深く読んでください。例えば外国人を雇用する企業への課税強化、公営住宅への入居で仏国籍者を優先する措置、不法滞在外国人の子供の公立学校有償化はきわめて差別的です。テロ組織に関与した二重国籍者からの仏国籍剥奪などは、人権や自由を重んじてきたフランスの伝統的価値観に反してすらいる。急進右翼的な思想が行間に表れています」



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 ――「ルペン大統領」の思う通りにはいかないのでは。

「今のフランス憲法は他の先進国と比べても大きな権限を大統領に与えています。さらに、15年11月のパリ同時多発テロ以来、非常事態宣言が発令されたまま。自宅軟禁や、裁判所の許可を経ない家屋や車両の捜索、パソコンや携帯電話などの押収など強大な力が治安機関に付与されています」

「フランスがユーロを離脱すれば物価は跳ね上がり、経済は大混乱に陥るでしょう。失業者も増えてデモやストが頻発します。そうした全てが社会不安として治安強化の口実になりえます。別にルペン氏だからどうのという話ではなく、民主国家が『合法的』に全体主義へと傾斜していく普遍的なリスクを示すのが漫画の狙いです」



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 ――顔認証技術やGPS(全地球測位システム)、ロボット、ドローンも駆使して個人監視を強めていく場面は、ジョージ・オーウェルの近未来小説「一九八四年」を思わせます。トランプ政権が誕生した米国のほか、日本でもこの本が売れています。

「オーウェルの予言は当たり、さらにその先へと向かいつつあります。ネットなど情報技術の進展は市民同士をつないで民主主義を促進する半面、統制の道具にもなる。一方、ネットには真偽が不確かな情報が飛び交っている。ルペン氏は既成メディアを『エリートのシステム』と攻撃しており、人々がこうした情報に飛びつきやすい状況が生まれています」

「科学技術に支配されるのではなく、いかに市民として使いこなすか。ウソと真実をどう見分けるか。子供の頃からスマホに触れなじむ時代です。学校教育が果たすべき役割は大きいでしょう」



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 ――経済のグローバル化がもたらす格差拡大などは日本を含めた世界共通の課題です。ポピュリズム(大衆迎合)を生む構造に世界はどう向き合うべきでしょうか。

「空間、時間的な距離が消滅していく流れはとどめようがありません。国境や民族の壁を築いて内に閉じこもっても世界は分断するだけ。かといって各人がグローバル化の海に身を委ねよというのも過酷な対応です。問題は、どこか高い所で自分たちの運命が決められてしまっている状況です」

「市民同士の関係を強固にして民主主義の空間を築いていくしかないでしょう。空間は国家と限りません。身近では職場や学校。国境を越えた結びつきもあります。市民同士の『関係性』を基盤にした民主主義の形を模索したい」

「私は一人ひとりの市民の力を信じています。漫画でも連携して政府の強権化に抗する市民の姿を描きました。でも、そうやって元に戻すのには時間がかかる。大切なのは、票を投じる前に一瞬立ち止まって考えることです」










☆☆☆やんジーのつぶやき
理想の民主国家を追い求めて混迷するフランス。
混迷から闘争へ。
分配重視政策の破綻劇だけは、もう見たくはあるまい。

 

















































































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by my8686 | 2017-04-26 17:33 | 徒然なるままに | Trackback | Comments(0)

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