丹下健三「カトリック関口教会」を読み解く

口腔外科小手術後、安静に努める昨日、録画したままになっていたアーカイブスを観る。
NHK名作選みのがしなつかしの「丹下健三」編である。


丹下健三は、前回の東京オリンピック(昭和39年)の国立代々木競技場をつくりあげた男である。その独特のデザインは当時最先端の技術に裏打ちされたものであり、それまでなかった大空間を実現した。素晴らしい空間設計に対し、五輪終了後IOCから建築家としては異例の功労賞を受けた。



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広島で旧制高校時代を過ごし、また原爆投下と同じ日に郷里・今治を襲った空襲で母を亡くした丹下にとって、被爆地・広島は特別な存在だった。戦後、広島の平和記念公園を設計した際には、慰霊碑に向かうと、視線は否応なしにアーチで切り取られた原爆ドームに向けられるように作った。撤去さえ議論された原爆ドームをあえて焦点に据えることで、被爆の記憶を永遠に留めようとした。




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その後、旧東京都庁舎、香川県庁舎では日本の建築の伝統をコンクリートに持ちこみ、見た者すべてに与える強烈なインパクトと美しい調和をもたらした。現在もなお当時のシンボルとして燦然と輝き、次の東京オリンピックでも競技場として使われる国立代々木競技場をつくった丹下、独自の「美学」と「哲学」を貫き通した生涯だった。




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この番組の最後に紹介された「東京カテドラル聖マリア大聖堂」に予期せぬ官能のざわめきを感じた。





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あらためて、この内容を読み解いてみよう。



日本へのカトリック再布教100年事業の一環としてドイツ・ケルン大司教区の支援を受けながら、カトリック東京大司教区主催による東京カテドラル聖マリア大聖堂のコンペが、1962年(昭和37年)5月締め切りで行なわれ、指名コンペで丹下が一等当選を決める。

HPシェルの現代的な構造技術を用いながら、教会の建物そのものが頂部において十字架型になるという丹下案が異彩を放っていた。



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西洋教会に見られる典型的な建築計画を否定し、いったん敷地の奥の「ルルドの洞窟」に向かって進み、それから転回するように階段を上り聖堂に至るという動線計画が立てられていた。これは、鳥居や山門をくぐって参道を歩みながら徐々に気持ちを整え、それから「本尊」に相対するという日本の伝統的手法をとり、建物本体の記念碑性だけでなく「場」の力によって聖性を生み出すことが目指されていた。その教会に付属する周辺施設との配置バランスにもすぐれた全体計画が高評価の理由であったという。





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構造については、2枚ずつ4種類、合計8枚のRC造のHPシェルを立て掛けるようにして縦使いに用い、頂部でトップライトのための間隙を十字架状に開けながら、梁によってお互いに支持し合う形で、中心部と端部の5カ所で連結されている。また周縁部を除くと厚さ12cmのシェルの剛性を高めるために、外側に2mピッチで縦横にリブが設けられているほか、底部においては脚部を開かせて建物を崩壊に導く躯体のスラスト荷重に対抗する引っ張り材として、頂部中心にある十字状の繋ぎ梁と同様のクロス・タイビームが地下に設けられており、構造力学的に厳密にいえば、HPシェルの構造体としては成立していないという。




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しかしながら、美学的にはエクステリアにおいて、聖母マリアに捧げられた聖堂にふさわしく、岩場の水面に舞い降りて来た銀色の白鳥が羽根を震わせているかのようなイメージを演出し、インテリアにおいては、8枚のコンクリート打放しのHPシェル壁面が、視覚的に折り重なり互いに絡み合うようにしてうねりながら、頭頂部の十字架状のトップライトまで緩やかに這い昇ってゆき、視線はそのまま天上に至るかのような上昇感覚を生み出している。





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内部空間は、上空から俯瞰する神の視線を意識した時あらわれる頂部の特徴的な形態は十字架型だが、底部は菱形に開いて広がっており、現実の教会の空間としての使い勝手を損ってはいない。





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縦使いの2枚のHPシェルの壁面にはさまれたスリット状の側面には無色透明のガラスが嵌められており、外光を取り入れるハイサイドライトとなっている。同様の十字架状のトップライトとともに、コンクリート打放しの壁面に白色の光をもたらし、モダニズム建築の禁欲的なモノトーンの美学を際立たせているが、数段の階段をはさんでやや高くなっている内陣奥の祭壇部分だけは、ステンドグラスの代わりに大理石を薄くスライスしたものが嵌められていて、イエスの受難を象徴する巨大な十字架の後ろから、光背として品格のある重く荘厳な黄金色の光を内部空間に放っている。




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コンクリートで打ち出されたままの内壁は禁欲的で静謐な印象を与え、その打ち跡は近代建築に残されたわずかな手技を感じさせる。最頂部で40m近くに達する内部空間は伝統的なゴシック教会建築の上昇感覚を表象するとともに、キリスト教の前身である旧約の古代ユダヤ教会の幕屋をも同時に偲ばせる造形になっている。




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残響は7秒(空席時)に達し、典型的な中世ヨーロッパの大聖堂よりも長い。ヨーロッパの典型的な大聖堂のそれに似た音響特性を持つ大空間は日本では珍しいとされ、時おり開催されるパイプオルガンやオラトリオ・グレゴリオ聖歌などの演奏会では、現代的なコンサートホールでは味わうことができない教会特有の響きを味わうことができる。しかし、長い残響と、変則的な壁面形状による反射の周波数特性から、司祭の説教は聞き取りにくく、音楽によっては音が混濁した印象を与えるという。




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☆☆☆GGのつぶやき
広島原爆ドームに照準を合わせて引かれた一本の基準線の意味を、あらためて再認識させられた番組であった。
丹下の目指した周到な設計意図を再考しつつ丹下の次の言葉をかみしめたい。

「平和は訪れて来るものではなく、闘いとらなければならないものである。平和は自然からも神からも与えられるものではなく、人々が実践的に創り出してゆくものである。この広島の平和を祈念するための施設も与えられた平和を観念的に記念するものではなく、平和を創り出すといふ建設的な意味をもつものでなければならない」








































































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by my8686 | 2018-03-31 15:46 | 気になる建築&空間 | Trackback | Comments(0)

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