「プラネタリー・バウンダリー」を読み解く

西日本が死者200人を超す豪雨に見舞われたのに続き、「災害級」の猛暑が日本列島を襲っている。人間の活動によって、地球環境は限界を超えつつあるのか。

持続可能な開発目標(SDGs)の基礎になった枠組み「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」。その研究を主導したヨハン・ロックストローム氏のインタヴュー記事を読み解いてみよう。




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 ――日本では西日本豪雨に続いて記録的な猛暑、世界でも米国や北アフリカ、インドで50度を超えるなど異常気象が続いています。地球温暖化の影響でしょうか。



私の住むスウェーデンなどの北欧も、これまでにない熱波や干ばつ、森林火災に襲われています。私たちは、世界中で豪雨や熱波、ハリケーンなど、異常気象の頻発を目撃しています。ただ、西日本豪雨が人間活動による温暖化の影響かと問われれば、答えは科学的にとても複雑で、『イエス』とも『ノー』とも言えます。世界の平均気温は産業革命前より1・1度上昇しました。これは異常気象に影響を与えるでしょうが、とても多くの複雑なプロセスが絡み合っています。

そのうちの一つが、気温上昇による大気中の水蒸気の増加です。大気中により多くの水分がたまれば、どこかで放出しなければならないので豪雨が増える。温暖化と豪雨災害を切り離すことはできません。

一方で、個々の異常気象と気候変動を単純に結びつけることはできません。一つの豪雨が直接、温室効果ガスの排出に関連していると証明する方法を、私たちは持っていないのです。

地球の気温は上昇しており、結果として気候変動が起きているのです。温暖化は異常高温だけでなく異常低温も引き起こします。温室効果ガスの排出が温暖化をもたらし、温暖化が気候変動を招き、気候変動が気象に影響を与えるという3ステップになっています。




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 ――1・1度の気温上昇でこれだけ影響が出ています。地球温暖化防止の国際ルールであるパリ協定は、産業革命前からの世界の平均気温の上昇について、2度を十分下回り、1・5度を目指すとしていますが、世界は4度上昇に向かう軌道上にあります。




1・1度になっているのは、大気汚染などによるエーロゾル(浮遊粒子状物質)に日射を遮る冷却効果があるからで、これがなくなれば1・5度近くに急上昇することを覚えておくべきです。

地球の気温は、すでに最終氷期終了(約1・2万年前)後で最も高くなっています。たとえ2度未満に抑えても、影響を軽減するために膨大な適応策が必要になるでしょう。

プラネタリー・バウンダリーの気候変動の限界値である1・5度は目の前に来ています。
2度未満に抑えるには、石油や石炭など化石燃料の使用をやめるだけでなく、ほかの項目が限界値を超えないようにしなければなりません。炭素を自然生態系の中に隔離しておかなければなりません。

私たちは恐らく、永久凍土の融解によるメタン放出や炭素吸収源である森林の喪失、海洋からの炭素放出の危険性を、低く見積もり過ぎています。




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 ――7月に日本語版が出版された「小さな地球の大きな世界~プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発~」は、地球システムは回復力が高く元の状態にとどまろうとするが、転換点を超えると回復不能で予期しないことが起きると書いています。地球は限界を超えたのでしょうか。




私たちが化石燃料から脱却することはもちろん必要ですが、それ以上に重要なのは、地球の陸地や海洋の自然生態系が、いまの均衡状態を保とうとする回復力を失わないようにすることです。そのための土台となるのがプラネタリー・バウンダリーの枠組みで、中核が気候システムと生物多様性です。

地球の回復力には亀裂が生じています。それを示す出来事が最近ありました。2015年と16年、増え続けてきた世界の二酸化炭素(CO2)排出に歯止めがかかりました。大気中のCO2濃度上昇にもブレーキがかかると思ったら急上昇したのです。人間がCO2排出を削減したのに、森林や海などの自然生態系がこれまでのように吸収しなかったのです。森林火災や干ばつが増えてCO2吸収量が減るエルニーニョの年ではありましたが、回復力喪失のサインでしょう。自然も潜在的なCO2排出源になり得るのです。

回復力があるうちは、温室効果ガスを生物圏内にとどめておくことができますが、弱ったところにエルニーニョや熱波など、ちょっとした一撃が加えられて転換点を超えれば、地球は別の状態に変わり、元には戻れなくなります。




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 ――プラネタリー・バウンダリーで、安全でいられる限界値を定量化して10年近くたちました。気候変動と生物多様性の損失、土地利用の変化、窒素とリンによる汚染の四つはすでに危険領域に入っています。事態は悪化しているように見えますが、良い兆しはあるのでしょうか。





残念ながら、すべての傾向は依然として悪い方向に進んでいます。一方で神経質にならず、楽観的でいられる理由もあります。かつて、自然を守るには犠牲が伴うと考えられていましたが、いまや収益性の高いビジネスや成功の好機になりました。例えば、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行は、急速な技術的進歩もあり、大きなビジネス機会になっています。

環境が大事なことは分かっていても、コストが高くビジネスにならないようでは、だれもやろうとしません。再生エネが化石燃料より安くなって広がったように、いまの変化は持続可能性にこそ収益性があり、唯一の成功の道だと分かったから起きているのです。








 ――トランプ米大統領がパリ協定からの離脱を表明して、1年余りが過ぎました。困った影響は出ていますか。




今のところ悪い影響は出ていません。むしろいい影響があると言ってもいいかもしれません。まず、トランプ大統領は離脱を決めましたが、実際に離脱できるのは次の大統領選の時期です。

次に、都市や州、ビジネス界から多くの怒りの声やパリ協定を守る機運が生まれました。9月、トランプ大統領に対抗して、米サンフランシスコで『グローバル・クライメート・アクション・サミット』を開きます。
もちろん悪影響がまったくないわけではありません。気候研究に関する予算は危機にさらされています。




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 ――日本には、環境対策が経済や雇用にマイナスという考えが、まだ根強く残っています。




持続可能な消費や暮らしが、最も安くて簡単なら、人々は地球や環境のことを考えなくてもそれを選ぶでしょう。環境問題の解決のために、環境だけに注目するのをやめなければなりません。それは経済や雇用、豊かさ、繁栄の問題なのです。ただ、変革は急を要します。25年で脱化石燃料の経済を実現し、いますぐ生物多様性の喪失を止めなければなりません。政治やビジネスのリーダーシップが必要です。




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 ――プラネタリー・バウンダリーの考え方は、国連が15年に採択したSDGs(持続可能な開発目標)の基礎にもなっていますね。





二つには、とても強い関係があります。SDGsの17目標にはプラネタリー・バウンダリーの9限界値のうちの四つが入っていて土台になっています。
それ以外の限界値も、SDGsの中に埋め込まれています。SDGsは、すべての国にとって地球の限界内で発展するためのロードマップであると言えます。
日本やスウェーデンのような国は、リップサービスではなく、SDGsを最高レベルの政策に位置づけなければなりません。




  
<プラネタリー・バウンダリー>
人類が安全に活動できる範囲を、地球の限界値として9項目で定量(数値)化。ロックストローム氏をリーダーとする世界的な研究チームが09年に発表した。
地球の「健康状態」を示す。限界値を超え、回復力を失うと、不可逆的に生態系や環境が悪化し、人類を危険にさらす。



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☆☆☆GGのつぶやき
地球を不健康にさせてしまったのは、誰あろう「人間」である。
経済繁栄のみが人類の幸福ではないことに、まだ気がついていない愚か者の集団だと嘆いているばかりでは、仕方があるまい。
次世代の真の幸福は、経済的繁栄ではなく、人類が安全に活動できる「かけがえのない地球」の再構築であろう。
















































































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by my8686 | 2018-08-03 09:41 | ヘビーな話は、謹んで | Trackback | Comments(0)

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