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ゴダールは何を引用したのか「13時間」を読み解く

ゴダール監督作品『イメージの本』の中で、マイケル・ベイ監督の『13時間』が使われているようだが、という記者からの質問に明確な回答を避けたゴダール。

その真相が知りたい。さらに、無性にその『13時間』が観たくなった。日本では劇場公開されずビデオスルーされた作品だという。
ビジネスベースに乗らないと判断されたのか、なんらかの政治的圧力が働いたのか、それは分からない。




あらためて、この映画とその背景について読み解いてみよう。


『13時間 ベンガジの秘密の兵士』(原題: 13 Hours: The Secret Soldiers of Benghazi)。

2012年に実際に起きた2012年アメリカ在外公館襲撃事件を題材としている。

原作は、ミッチェル・ザッコフの書籍『13 Hours: The Inside Account of What Really Happened in Benghazi』。
制作は、2016年。マイケル・ベイ監督によってアメリカ合衆国で製作されている。
撮影は、2015年4月27日にマルタで始まり、パラマウント映画が2016年1月15日に公開。しかし、日本では劇場公開されずビデオスルーされている。





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まず、2012年の「アメリカ在外公館襲撃事件」の背景について読み解いてみよう。

この事件は、エジプトやリビアなどアラブ諸国のアメリカの在外公館が2012年9月11日以降、次々に襲撃された事件である。
襲撃動機は、米国で作成された映画"Innocence of Muslims"がイスラム教を侮辱しており、これに抗議したものとされているが、その真意は不明である。

一連の襲撃事件で、在リビアのアメリカ領事館では駐リビア大使ら4人が殺害された。公務中のアメリカ大使が殺害されるのは、1979年に駐アフガニスタン大使が殺害されて以来のことである。

エジプト、リビアを発端とした反米デモは他のイスラム諸国にも波及し、スーダンでは批判の対象はアメリカだけではなく、イギリスやドイツなどヨーロッパ諸国にも向けられた。

各国の治安部隊が在外公館への侵入を許したことは、2010年末からの「アラブの春」により強権体制が崩壊した影響で、治安維持能力が低下したことを浮き彫りにしていた。

映画"Innocence of Muslims"とは、約14分間の動画が2012年7月、Youtubeに投稿され、その中で預言者ムハンマドが残酷な殺人者であり、また子どもに性的ないたずらを行う、女性関係が派手な好色な人物であると描写されていたほか、ムハンマドを嘘つきとする場面も含まれていたという。

当初、アメリカ国内では話題にもならなかったが、この映像のアラビア語版がイスラム社会でもテレビで取り上げられ、イスラム教においてムハンマドの姿を描くことは禁じられている上、あまつさえイスラム教を侮辱しているとも取れる内容であったため、イスラム教徒を大きく憤慨させることになったとされる映画である。






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この映画は、アメリカ在住のエジプト人のキリスト教系コプト教徒や、2010年にイスラム教の聖典を燃やすなど過激な行動で知られるテリー・ジョーンズ牧師らによって作成され、カリフォルニア州で約3ヶ月をかけて撮影されたという。

当初はアメリカとイスラエルの二重国籍を持つ実業家サム・バシルがユダヤ人から500万USドル(約3億9000万円)の寄付金を募りプロデュースしたとされていたが、のちにロス在住のコプト教徒の偽名を使ったナクラが製作者であったという。その後、連邦保護観察当局の任意聴取を受け、協力的に応じていると報道され、アメリカ国内の法律では、襲撃事件を起こした件についてナクラや協力者の罪は問えないとされている。






■事件後の反響

事件を受け、米国のオバマ大統領は各国に駐在するアメリカ外交官らの警備を強化するよう指示。またリビアにおいてスティーブンス大使らが殺害された事件について、常軌を逸していると非難する声明を発表。

リビアとの関係は変わらないとする一方、リビア政府とともに犯人に裁きを下すと宣言。9月12日にはワシントン国務省の南庭で追悼集会が行われ、オバマ大統領やヒラリー・クリントン国務長官、同省の職員数百人が参加した。

この事件は、投票を2ヶ月後に控えていた2012年アメリカ合衆国大統領選挙にも影響を与え、オバマ政権の対応について様々な憶測や批判が集中した。





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9月12日にはアメリカ海兵隊が対テロ部隊約50人をヨーロッパからリビアに移動させ、アメリカ在外公館の安全強化を図っている。
NATOの事務総長もこうした暴力は正当化されないとして事件を非難。

リビア制憲議会議長で元首格はアメリカに対し事件について謝罪。リビアの副首相は、Twitterでアメリカ、リビア、そして全ての自由な人々に対する攻撃を非難するとの声明を発表。
この時、リビア政府はベンガジでの事件の背景に、「旧カッザーフィー政権の残党」が関与している可能性を指摘している。

映画作成に関わったジョーンズ牧師は、映画はイスラム教徒を攻撃する目的で作成したのではなく、イスラム教の破壊的なイデオロギーを明らかにするためだったと声明を発表。

また映画をプロデュースしたバシルは、これは宗教映画ではなく、イスラム教の偽善を明らかにするための映画だと主張し、「イスラムは癌である」との持論を展開している。

イスラム世界ではエジプトのイスラーム原理主義組織ムスリム同胞団が金曜礼拝の行われる9月14日に「平和的なデモ」を行うよう呼びかけ、これに応じてカイロで行われた抗議デモには、ムスリム同胞団やサラフィー主義者だけでなく、「コプト・司祭」も参加している。

反発はチュニジアやレバノンなど他のイスラム圏にも広がり、同様の騒乱がエジプトやリビア以外にも広がることも懸念された。





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9月12日、YouTubeは問題の映像をリビアとエジプトで一時的にアクセス制限したと発表。

2013年5月2日には米連邦捜査局が本事件に関わった可能性のある、襲撃当時現場にいてその後立ち去った身元の分からない男3人の写真を「情報を求める」として公開。

2014年1月アメリカ上院情報特別委員会は、事件に対して周知の治安対策不足に対応していれば回避できたとする報告を行い、未然の事件予防の欠如を指摘。

6月にはアメリカ国防総省の報道官により特殊部隊とFBIによる作戦で、ベンガジ近郊において事件の首謀者と目されている主導者のアハメド・アブカタラを拘束したと発表している。







これらの背景を踏まえ、映画のあらすじを観てみよう。



■『13時間 ベンガジの秘密の兵士』あらすじ

2012年、リビアのベンガジは世界で最も危険な場所のひとつに指定されていた。
米国はベンガジにCIAが秘密裏に設置している「The Annex」だけを残し、民間軍事請負業者のチーム「GRS(グローバル・レスポンス・スタッフ)」がCIA職員を保護している。

CIAチーフのボブはGRSの行動を制約する。ジャックは友人のロンがチーフを務めるアネックスのGRSにアメリカから赴任してくる。

各国は過激派の攻撃を恐れ、多くはベンガジから職員を退去させた。しかし、米国のクリストファー・スティーブンス大使らが市内に赴任してくる。

大使館と比べ警備の手薄な領事館に滞在し、わずか5人の護衛に加え、地元のリビア人民兵を雇う。



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アメリカ同時多発テロ事件から11年目の夜、アンサール・アル=シャリーアの武装集団によって在外公館が攻撃されてしまう。
GRSチームは、大使救出を志願するが、アネックスとGRSは存在を秘匿されており、ボブは一貫して待機を強く命じる。

ついに領事館は制圧・放火され、リビア人民兵は逃げだし、セーフルームに隠れていた大使らまでにも脅威が迫る。我慢の限界に達したGRSチームは命令に背き領事館へ向かう。

だがGRSチームは大使を見つけられずにアネックスに退却し、追ってきた敵はアネックスに迫る。

CIAは機密文書を破壊し、GRSチームはアネックスに立てこもり、助けを求める。トリポリからGRSの援護が到着して退去準備を始めるが、敵は迫撃砲攻撃を始めてロンは死に多くが負傷する。

GRSの味方のリビア人部隊"リビアの盾"が到着してアネックスは守られる。だが大使は死亡していた。

生存者たちと4人の遺体は帰国し、GRSの生存者たちは叙勲され、引退して家族と暮らす。



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☆☆☆GGのつぶやき
アメリカ政府の政治的隠蔽工作が透けて見える映画のようである。
襲撃者の本当の動機は何だったのか。イランがアメリカの反アサド勢力への武器供給を止めようとしたのか、それともリビアのイスラム武装勢力がアメリカによるMANPADS回収を阻止しようとしたのか?
疑問が残るのは、当時のヒラリー・クリントン国務長官が「なぜ映画に対する抗議デモだなどと事実でないことを言ったのか」という追求にキレてしまった本当の理由である。
そして、ゴダールがどういう意図でこの映画の戦闘シーンを引用したのか、その真意も知りたいと思った。




by my8686 | 2019-07-15 12:00 | たかが映画、されど映画 | Comments(0)