山本理顕の2024年度プリツカー賞受賞が基因となり、あらためて山本の主要作品を読み解いている。
本日は、山本理顕の自邸である「GAZEBO」を読み解いてみよう。
場所は、横浜の反町駅から徒歩5分、横浜駅から徒歩15分の泉町にある。
「GAZEBO」
1986年竣工、1987年に日本建築学会作品賞を受賞。
軽やかなテントやステンレスのメッシュに覆われた4階建ての雑居ビル。
3階の一部と4階が山本理顕の住居である。
建築面積は210.58㎡、延床面積は664.60㎡、構造は鉄筋コンクリート造と鉄骨造。
ガラスと鉄板の入れ子構造からなる外観が特徴的だ。
単純ながら美しいガラスの箱の中に展示室と収蔵庫を配置し、高さを抑えることにより景観との調和にも配慮している。
横浜駅から徒歩20分の都心にあるこの地で育った山本は、薬局を営んでいた母とその妹、同業の妻と乳児との住まいを、かつて自身が地域で育ったような多様性のある暮らしを支える現代の住まいとして造った。
幹線道路に面し、1階は店舗、2,3階は貸室だが、3階の一部には主玄関と夫婦の居室を設け、4階には母たちの居室と内玄関・水廻り、そして中庭を挟んで共有のダイニングキッチンを配置する。
この中庭には3階の主玄関から直接出入りすることができ、ダイニングキッチンに居ても母の様子がわかるように程よい距離が保たれている。
近隣の雑居ビルの屋上階居住者も地元の人たちであり、朝の植木鉢の水やりなどで路地越しに挨拶を交わすなど、かつての緩やかな地域社会が地上から10mの上空に移動したような造りとなっている。
その後、家族の成長・体調に対応して4回の大きな改修工事が成されたが、変わったのは間仕切りのみであり、中庭を囲む暮らしは変わっていない。
将来の住まい方は未定だが、初めから核家族限定の暮らしを前提にはしていない小規模多機能住宅である。
背後の斜面緑地ともつながり、豊かな自然環境をも取り込んでいる。
家族室の天井にはスティール・フラッシュのスライド扉が付けられ、開けるとトップライトになる。
打ち放しコンクリートにスティールが接合されるディテールをできるだけ軽やかに見せるためにピンナップされるような接合方法がデザインされている。
このビルを拠点にして、「誰もが働きながら暮らすまちづくり」に挑むプロジェクトが活動している。
GAZEBO 1Fには「いづみtea&bar」というまちに開かれた、昼はカフェ、夜はバーになる店がある。
毎日異なる日替りランチが楽しめ、2Fにはプロジェクトの拠点、会員の拠点となる「いづみco&work」がある。
新たな職場として、リモートワークのスペースとして、個人商売を始めるきっかけの場所として、皆で使い方を考えて自由に使える、会員によるイベントが企画されている。
memo
「ガゼボ」について、山本は次のように記している。
ガゼボは、横浜にある自邸である。朝6時半頃にいつも目を覚ます。金魚に餌をやり、猫のトイレの始末をする。
リンゴやオレンジやキャベツを入れた野菜ジュースをつくる。
金魚鉢は4階のテラスの上に置いてあるから、餌をやるときに路地を隔てた隣の家の屋上が見える。
3階建ての建物の屋上はさまざまな植物で埋まっている。その植物に水をやったり、洗濯物を干したりしたりしているおばさんと朝の挨拶をする。
「暑くなってきましたねえ」。
そのさらにその向こうの家の屋上も洗濯物を干す場所になっていて、そのおばさんにもついでに挨拶する。
地上4階部分あたりに地域社会の日常が漂っているわけである。
1950年代の中頃に土地区画整理法という法律ができて、そのために日本中の道路が大改造された。
この眼の前の道路もその頃拡幅された。幅4mほどの道路が突然に26m道路に拡幅されたのである。
その道路はもはや子供たちの遊ぶ場所でもにわとりがうろつくような道でもなくなった。
地域社会と一体になってその地域社会を育んできた道路がいとも簡単に消滅してしまった。
つまり、地域社会そのものが壊滅的に失われてしまったわけである。
このあたりは50年前とはすっかり変わって、4階から5階建ての商業ビルがこの道路に面して建ち並んでいる。
かつてここに住んでいた人たちは、今、その最上階に住んでいる。
下の階は賃貸アパートや店舗に貸して、その上に自分たちが住む。
これが一般的に、こうした幹線道路沿いの住み方である。
その最上階の日常の風景が前述の風景である。
かつての地域社会の記憶をまだ保存している人々が最上階に住んでいる。
居住環境としては決して好ましい環境ではない。
かつての濃密な地域社会はすでに失われてしまった。
それでも、それに代わる、穏やかな地域社会のような関係が地上10mあたりに漂っている。
ガゼボはそうした関係を強く意識してつくった建築である。
☆☆☆GGのつぶやき
山本理顕設計工場の「GAZEBO」を読み解きつつ、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。