都市を「リゾーム」として読む──この視点でフランスの近年の建築を眺めると、単なるスタイルの話ではなく、都市の構造そのものを非階層的・水平的・ネットワーク的に再編しようとする動きが浮かび上がってくる。
この問いは、まさにドゥルーズ=ガタリ的な都市観と建築実践を接続する核心に触れることになる。
■ リゾーム的都市観と接続するフランスの新しい建築の潮流
1. 階層を拒否し、水平的ネットワークをつくる建築
リゾームは「中心を持たず、どこからでも接続し、どこへでも伸びる」構造。
フランスの新しい建築は、これを都市空間で実践しようとしている。
● 代表例:ラ・ヴィレット公園(ベルナール・チュミ)
- 点在する「フォリー」が都市の新しい接続点として機能
- 中心性を拒否し、散在するプログラムが自由に接続
- 都市を「読む」のではなく「書き換える」装置としての建築
これはリゾーム的都市の典型的なプロトタイプといえる。
•名称:Parc de la Villette(ラ・ヴィレット公園)
•住所:211 Avenue Jean Jaurès, 75019 Paris
•区:パリ19区
「住居に都市を埋蔵する」ことばの発見「多層構造」 28-1 28-2 を読み解く
「住居に都市を埋蔵する」ことばの発見「多層構造」<チェミのラ・ヴィレット公園コンペ案>を読み解く vol.1
「住居に都市を埋蔵する」ことばの発見「多層構造」<チェミのラ・ヴィレット公園コンペ案>を読み解く vol.2
ラ・ヴィレットのフォリーは、中心を拒むリゾームとして都市に無数の接続を開く。
意味を固定せず差異を横断させるその構造は、二項対立に回収されがちな米国の分断とは対照的だ。
根を深めるのではなく、横へと伸びる関係性の網目こそ、分断を超える思考のモデルとなる。
2. 用途を固定せず、変異し続ける建築
リゾームは「変異」「脱コード化」を本質とする。
フランスの建築家たちは、用途を固定しない「オープン・プログラム」を志向している。
● 例:ラカトン&ヴァッサル (Lacaton & Vassal)
- 既存集合住宅の増築で「余白」をつくり、住民が自由に使える空間を提供
- 建築家が用途を決めない
- 都市の中に“使い方の未決定領域”を挿入する
これは都市のコードを緩め、リゾーム的な自由度を都市に注入する行為。
代表作(コンセプトが最もよく現れるプロジェクト)
•ボルドーの社会住宅改修(Grand Parc Bordeaux)
→ 既存集合住宅に巨大な冬庭を増築し、住民の生活を劇的に改善。
•Latapie House(1993)
→ 温室構造を用いた低コスト住宅。
•FRAC Dunkerque(2013)
→ 造船所の巨大空間を壊さずに再利用。
これらはすべて「壊さずに、広く、自由に」という彼らの哲学を体現している。
ラカトン&ヴァッサルの「余白」は、主体を拘束するコードを外し、住民が自ら関係を編み直すためのリゾーム的契機となる。
固定的アイデンティティに回収される米国の分断とは異なり、未決定の空間は差異が共存し続ける場を開く。
対立ではなく、多様な線が交差する都市の未来を示す。
※2021年のプリツカー賞をラカトン&ヴァッサルが受賞。
3. 都市と自然を連続させる「エコロジカル・リゾーム」
フランスでは都市計画が「生態系ネットワーク」と結びつきつつある。
● 例:パリの“Trame Verte et Bleue”(緑と水のネットワーク)
- 緑地・水系を都市全体に水平に張り巡らせる
- 中心性ではなく、連続性・接続性を重視
- 都市を「生態的リゾーム」として再構築
都市を一本の幹ではなく、絡み合う根茎として扱う発想。
パリで TVB を構成する代表的エリア
•セーヌ川沿いの生態回廊
•ブローニュの森(Bois de Boulogne)
•ヴァンセンヌの森(Bois de Vincennes)
•ラ・ヴィレット運河(Canal de l’Ourcq)
•プロムナード・プランテ(Coulée verte René-Dumont)
これらが TVB の“ノード(結節点)”として機能している。
Trame Verte et Bleue は、都市を一本化せず無数の線が交差し続けるリゾームとして構想する。
中心を奪い、連続性だけを強調するその生態的網目は、二極化へと幹を伸ばす米国の分断とは対照的だ。
固定化された境界を越え、差異が横へと接続し続ける社会のモデルを示している。
4. 巨大建築ではなく、微細な介入のネットワーク
リゾーム的都市は「小さな点の集合」が都市を変えると考える。
● 例:パリの“タクティカル・アーバニズム”
- 歩道の拡張、ポップアップ広場、自転車レーンの即興的増設
- 小さな介入が都市の流れを変える
- 都市を“巨大な計画”ではなく“連続する局所的変異”として扱う
これはまさにリゾーム的都市操作である。
•ポップアップ自転車レーン(特にラ・デファンス方面)
•Paris Respire(歩行者化エリア)
•ポップアップ広場
パリのタクティカル・アーバニズムは、都市を一つの体系に従わせず、
微細な変異が連続しながら流れを変えていくリゾーム的実践である。
中心を奪い、局所的な接続が増殖するこのモデルは、
二極化へと幹を伸ばす米国の分断とは対照的だ。
小さな差異が共存し続ける都市の可能性を示している。
■フランスの新しい建築は「都市をリゾーム化する」試みである
都市のリゾーム的読解に接続するフランスの建築潮流は、次の4点に集約できる。
1. 中心を持たないネットワーク構造をつくる(チュミ)
2. 用途を固定しない変異可能な空間をつくる(ラカトン&ヴァッサル)
3. 都市と自然を連続させる生態系ネットワークを構築する
4. 小さな介入の集合で都市を変える(タクティカル・アーバニズム)
つまり、フランスの新しい建築は「都市を一本の幹ではなく、無数の根茎が絡み合う場として再構築する」という思想に深く共鳴している。
☆☆☆GGのつぶやき
フランスのリゾーム的都市実践が示すのは、社会を一本の幹に集約しようとする発想から離れ、
多様な線が交差し続ける構造こそが都市と国家を強くするという視座である。
チュミのフォリーは中心を持たないネットワークを生み、ラカトン&ヴァッサルは用途を決めない余白を挿入し、市民の創造性を解き放つ。
Trame Verte et Bleue は自然と都市を連続させ、境界を越える生命の流れを都市の骨格に据える。
タクティカル・アーバニズムは小さな変異の連鎖が都市を更新することを示す。
これらは「制度で固める」よりも「多様な接続を増やす」ことが社会の強度を高めるという思想に通じる。
日本が本当に強くなるために必要なのは、消費税の是非といった単線的議論ではなく、
都市・社会・自然のあいだに無数の横断的な線を育て、変化に耐えるしなやかな構造をつくることだろう。