本日までのイラン紛争は、米・イスラエル連合軍による大規模攻撃が続き、イラン側も湾岸諸国を含む広域へミサイル・ドローン攻撃で応戦し、戦線は中東全域に拡大している。指導部の混乱、地域諸国の巻き込み、油価高騰など、軍事・政治・経済の三方面で緊張が急速に高まっている。
イランは湾岸諸国へ報復攻撃を継続。サウジは14機のドローンを迎撃、ドバイでは高層ビルが被弾し火災が発生。イスラエルは「体制転覆を視野に入れた全面攻勢」を宣言。今後さらなる作戦拡大を示唆。米国は「無条件降伏」を要求し、地上侵攻の可能性も示唆。トランプ大統領は「非常に強い打撃」を続けると発言。地域情勢は連鎖的に不安定化。レバノン、イラク、湾岸諸国などで攻撃・迎撃が相次ぎ、国際石油市場も混乱している。
イラン紛争の激化は、日本経済に直接的な圧力を与えている。日本は原油の 9割以上を中東に依存しており、ホルムズ海峡の緊張は 原油・電力・物流コストの上昇リスクを高める。日銀は市場の不安定化を受けて 利上げ判断を慎重化し、円安圧力も強まっている。政府は当面の供給に問題はないとするが、紛争が長期化すれば 物価上昇・企業収益悪化・家計負担増が避けられず、日本経済への影響は深刻化する可能性が高い。
然れどもさて置き、本日はピーター・ズントーのLACMA新館(David Geffen Galleries)を読み解いてみよう。
2026年4月の正式開館に向けてすでに内部公開が始まっており、その特徴は複数の層で読み解く必要がある。
“静けさの中に潜む強度”を都市スケールで実現した、極めて特異な美術館建築。
場所は、5905 Wilshire Blvd, Los Angeles, CA 90036, USA。
全体構成の特徴:大地の上を“漂う”ような建築
- 建物はウィルシャー大通りをまたぐ、約274m(900フィート)の長大な水平建築。
- 7つのコンクリート・パビリオン(脚部)の上に、蛇行するような“ひとつながりの展示床”が乗る構成。
- 展示フロアは地上約30フィート(約9m)に浮かぶように設計され、都市の喧騒から切り離された“空中の大地”をつくる。
ズントーが好む“地形のような建築”が、巨大都市ロサンゼルスの中心で実体化したと言える構成である。
※建物が大地から切り離され、7つの脚に支えられて都市の上空を漂うこの構成は、ドゥルーズ的には〈平滑空間〉の出現として読める。蛇行する展示床は中心も境界も持たず、都市の力学を受け流しながら差異の連続面として広がる。浮上した“空中の大地”は、固定的な地形ではなく、強度の変化によって生成し続ける場となり、鑑賞者の身体をリゾーム的な移動と接続のネットワークへと巻き込んでいく。
🌫 造形と素材:流動するコンクリートの大地
- 建物全体は有機的にうねるコンクリートの一筆書きのような形態。
- 外壁はガラスとコンクリートが連続し、光の反射と影の濃淡が刻々と変化する。
- ズントー特有の“物質の密度”が、巨大スケールでも失われていない。
この“流動する大地”のような造形は、菊竹清訓の「かたち以前の構造」にも通じる、形態よりも生成原理を優先する姿勢が強く感じられる。
※菊竹が宍道湖畔に設計した島根県立美術館は、湖と大地をつなぐ「なぎさ」、波打ち際の“洲浜”の地形を建築として立ち上げた作品で、まさに「かたち以前の構造」=地形的生成原理が形態を導くという菊竹の思想が最も純度高く表現されている。屋根の大きな曲線、低く抑えられたプロポーション、湖面の光を受けるチタン屋根など、形態は“結果”として現れ、先にあるのは地形・風・光・風土という環境の力学である。
※ズントーが物質の密度と光の質から“沈黙の場”を生成するのに対し、菊竹は風土と地形の力学から“かたち以前の構造”を立ち上げる。両者は異なる方法で、形態を超えた生成の建築を追求している点で並置できる。
光と空間:四方から光が入る“環状の展示空間”
- 展示フロアは110,000平方フィート(約10,220㎡)のワンフロア構成。
- タールピッツへの影響を避けるため建物全体をピアで持ち上げ、地上を公園として貫通させる構成がとられている。
- 274mの水平スラブが Wilshire Blvd を跨ぎ、東西キャンパスを一体化。リング状平面により展示の階層性をなくし、都市・公園・美術館を連続させる配置が特徴となっている。
※タールピッツ(La Brea Tar Pits)は、世界で唯一、都市中心部で継続的に化石が発掘されている場所。地下にタール(天然アスファルト)が広がり、地盤が極めて不安定で地下の圧力・温度・水分バランスが変わると、化石層にダメージが出る可能性がある。つまり、通常の基礎工事(深い掘削・杭打ち)を行うと、地層そのものを破壊してしまうリスクがあるためである。
- LACMA 新館の平面は、環状のワンフロアが有機的にふくらみながら連続し、鑑賞動線に序列をつくらない点が特徴。
- 中央の大きな空洞が光と風を引き込み、巨大建築に呼吸を与える。Wilshire Blvd を跨ぐ水平スラブとして都市と公園をつなぎ、非ヒエラルキーの展示理念を空間そのものが体現している。
- 床から天井までのガラス面が周囲を取り囲み、自然光が均質に入り込む。
- 内部は“洞窟のような静けさ”と“都市の光”が同居する、独特の感覚空間。
ズントーが長年追求してきた光の質のコントロールが、都市型美術館としては異例のレベルで実現されている。
※床から天井までのガラスが光を均質に拡散し、内部の“洞窟的静けさ”と都市の輝度が同じ平面で干渉しあうこの空間は、ドゥルーズ的には〈光の平滑空間〉として立ち上がる。光は境界を溶かし、物質は沈黙のまま差異を生成し続け、鑑賞者の身体は固定的主体ではなく、光の強度に触発されて変容する“生成する感覚”として空間に編み込まれていく。
動線と展示の思想:階層をなくし、ヒエラルキーを消す
- 展示空間は完全な単層構成で、部門ごとの固定ギャラリーを廃止。
- どの文化・時代の作品も同じ平面上で対等に並ぶという思想。
- 初期展示は“太平洋・インド洋・大西洋・地中海”という海洋を軸にした非ヒエラルキー型の構成が採用された。
これはズントーの建築哲学――「場所と物語の連続性を感じさせる空間」――を美術館のキュレーションにまで拡張した試みである。
※展示空間を単層化し、文化や時代の序列を解体するこの構成は、ドゥルーズ的には〈平滑空間〉への転換として読める。作品は固定的な区画に属さず、海流のように横断的な接続を生み、鑑賞者は中心も周縁もないリゾーム的ネットワークの中で関係そのものとして生成される存在へと変わる。展示は“並べる”のではなく、差異が連続的に立ち上がる運動として立ち現れる。
公共性と都市との関係:地上は“公園”、上空は“美術館”
- 建物の下には3.5エーカー(約1.4ha)の公園的公共空間が広がる。
- パビリオンにはレストラン、ショップ、劇場(300席)などが配置され、都市の生活と美術館が地表で混ざり合う。
- 上空の展示フロアは“静寂の帯”として都市から切り離される。
この上下分離の構造は、都市と芸術の関係を再定義する試みでもある。
技術と環境性能:巨大建築での“静かなサステナビリティ”
- 低炭素コンクリートの採用。
- 自然換気・放射冷暖房など、環境負荷を抑える仕組みを導入。
- LEED Gold 認証を目指す設計。
ズントーの建築は“環境配慮を声高に語らない”が、素材と空間の質を高めることで結果的に環境性能を上げるという静かなアプローチが貫かれている。
※低炭素コンクリートは、セメント使用量を大幅に減らすことで製造時のCO₂排出を抑えたコンクリートで、高炉スラグやフライアッシュなどの副産物を混合して環境負荷を下げる。セメント製造が排出の大半を占めるため、その置換が最も効果的な脱炭素手段となる。耐久性向上や資源循環にも寄与し、公共建築でも採用が進む。ズントーのLACMA新館では、素材の密度や静けさを重視する建築哲学と響き合い、“声高でないサステナビリティ”として空間の質そのものが環境性能を支える。
空間体験の核心:巨大スケールでの“ズントー的沈黙”
- 内部は“洞窟のような静けさ”と評され、音の反響や光の揺らぎが強く意識される。
- 展示前の状態でも、建築そのものが“作品”として成立していると批評家が指摘。
※巨大な水平体が都市の喧騒を遠ざけ、光と影のわずかな揺らぎだけが空間を満たす。物質は語らず、ただ沈黙の密度として漂い、鑑賞者の身体はその静けさの中で微細な感覚へと開かれていく。ズントーの建築は、巨大でありながら声を持たず、世界のざわめきを吸収して“聴こえない響き”へと変える場として息づく。
ズントーが小規模建築で培ってきた感覚の建築が、前例のないスケールで実現した点こそ、この新館の最大の特徴である。
※ズントーの小さな建築に宿る感覚は、バシュラールの詩的空間と同じく、物質が沈黙のうちに世界をひらく瞬間を抱きしめている。光は壁を撫で、木や石は記憶のように息づき、空間は形ではなく“内なる響き”として立ち上がる。そこで人は、世界を観るのではなく、世界にそっと触れられる存在へと変わっていく。
memo
「LEED Gold 認証」
国際的な環境性能評価制度 LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)における上位ランクの評価で、建物が高度な環境配慮と運用性能を満たしていることを示す。
LEED は米国グリーンビルディング協会(USGBC)が開発した制度で、エネルギー効率、水資源、材料、室内環境、立地など多面的に建物を評価する。
Gold は「Certified → Silver → Gold → Platinum」という4段階のうち上から2番目に位置し、環境負荷の低減と利用者の快適性を両立した建築に与えられる。
LEED Gold の位置づけ
•4段階評価の上位レベル(Certified / Silver / Gold / Platinum)
•高い省エネ性能、持続可能な素材の使用、良質な室内環境などが求められる
•国際的に通用する環境性能の証明となり、建物の価値向上にも寄与する
「ピーター・ズントー:素材と感覚の詩学」
・ズントーは「空気感(Atmosphären)」と「美しい姿(Schöne Figur)」を建築の本質と捉え、素材の質感・光・音・匂いといった五感に訴える空間体験を重視する。
・彼の建築は、場所性を積極的に受け入れ、土地の記憶や素材の物語を空間に織り込む。テルメ・ヴァルスでは、地元の石を用い、山の地形と一体化した温泉空間を創出している。
・ズントーにとって空間とは、人間の感覚と記憶を呼び起こす「場」であり、均質性ではなく個別性と詩的な深みが重要。
☆☆☆GGのつぶやき
ズントーのLACMA新館は、都市の大地を“漂わせる”巨大な水平体が、光・物質・動線の差異を連続的に生成する〈生成変化の場=リゾーム〉として立ち上がる。7つの脚に支えられた環状ワンフロアは階層性を拒み、文化や時代を横断する接続を無数に生む“非ヒエラルキー的平面”。流動するコンクリートの大地と四方からの光は、知覚を微細に揺らす差異の場をつくり、都市の喧騒を切断しつつ新たな関係性を生成する“沈黙の機械”として機能する。