イランの最高指導者に就いたモジタバ師は、ハメネイ師の“次男”であり、本来は宗教的な序列や政治経験から見ても後継の本命ではなかった。しかし、革命防衛隊(IRGC)との強い結びつきと、父の死後に急速に権力を掌握したことで、イランは一層強硬な体制へと傾いた。専門家は、彼が直接戦争よりも、代理勢力・サイバー攻撃・ホルムズ海峡での揺さぶりといった“長期的な消耗戦”を選ぶ可能性が高いと指摘する。
これは日本にとって深刻で、原油の9割を中東に依存する日本は、海峡の不安定化だけでエネルギー価格が急騰し、電気代・ガソリン代・物流コストが連鎖的に上昇する。さらにLNG供給の遅延や円安の進行も重なり、物価全体への圧力が強まる。紛争が長期化すれば、日本のエネルギー安全保障の脆弱性が露呈し、外交・経済の両面で難しい判断を迫られる。
日本は国家備蓄と民間備蓄を合わせて約230日分の石油を保有しているが、これは「通常の輸入が一切止まった場合に、国内需要をどれだけ賄えるか」を示す目安である。実際には、精製能力・輸送・需要調整などを考慮すると、実質的に安定して使えるのは150〜180日程度とされる。ホルムズ海峡が長期的に不安定化すれば、この備蓄だけでは半年持たず、電力・物流・製造業に深刻な影響が及ぶため、日本は代替調達先の確保と節約措置を同時に進める必要がある。
然れどもさて置き、本日はピーター・ズントーがLiving Architecture のために設計し、2018年完成した建築「Secular Retreat」を読み解いてみよう。
場所は、イギリス南デヴォンの丘陵地。英国で初めての恒久建築であり、彼の思想が極めて純度高く結晶した作品である。
Hyghdowne House, Chivelstone, Kingsbridge TQ7 2NL, United Kingdom
約5年前にシミュレーション・ドライブの旅で訪れた場所である。
イギリス二日目/「セキュアー・リトリート」
建築の核心:ズントーが目指した「静けさの建築」
Secular Retreat は、ズントーが語る「静けさ・思索・風景との対話」をそのまま形にしたような建築。
手突きの版築コンクリート(rammed concrete)
内外ともに手作業で突き固められた層状のコンクリートが用いられ、地層のような水平ストライプが現れる。
この素材は、時間の堆積を思わせる重厚さと、手仕事の温度を同時に持つのが特徴。
- 水平性の強調
建物は丘の稜線に沿って低く長く伸び、風景の“地平線”と呼応するように構成されている。
- 深い開口部とフレーミングされた眺望
厚い壁体に穿たれた深い窓は、南デヴォンの丘陵と海へ向かう眺望を額縁のように切り取っている。
ズントー自身が「パッラーディオの伝統に連なる建築をつくりたい」と語ったように、風景を“住まいの中心”に据えた構成になっている。
※ズントーが継承しているのは、「建築は風景・光・比例を通して人間の感覚を整える器である」というパッラーディオ的な根本思想である。
サイトと環境:風景そのものが建築の一部
- 場所は南デヴォン、Chivelstone の丘上
海まで約1マイル、周囲は起伏する丘、古い石造の村、木立、農地が広がる典型的なデヴォンの田園風景。
- 20m級のモントレー松がランドマーク
1940年代の旧家の庭から残された松が、建物の存在を遠くから示す“自然の塔”となっている。
- 静寂と隔絶
最寄りの町 Totnes からも細い生垣道を抜けて辿り着く“深い田園の奥”。
ズントーが語る「他の建物が視界に入らない贅沢」が実現されている。
内部空間:家具・照明までズントーの総合設計
Living Architecture の説明によれば、内部の家具・照明もすべてズントーがこの建物のためにデザインしたもの。
空間は以下のような構成でデザインされている。
- 5つの寝室(すべて専用バスルーム付き)
- 大きなリビングと暖炉
- 広いキッチンとダイニング
- 庭とテラスへ連続するガラス面
- 10名まで滞在可能な“住むための建築”
素材の重さとは対照的に、内部は柔らかい光と木の要素が加わり、意外なほど温かい雰囲気を持つと評されている。
建築的意義:ズントーの思想が英国の風景に触れた瞬間
Secular Retreat は、ズントーの代表的テーマが凝縮された建築。
- 素材の質量と時間性(版築コンクリート)
- 風景との対話(水平性・深い開口)
- 静けさと内省の空間
- 総合芸術としての建築(家具・照明まで一体設計)
また、Living Architecture のプロジェクトとしては、英国の一般の人々が“世界的建築家の空間に実際に泊まる”という体験を提供する点でも特別な位置づけとなっている。
memo
「rammed concrete」
rammed concrete は、型枠の中に材料を薄い層で入れ、ランマーで強く圧縮して固めることで成立する。
•材料構成
土・砂・砂利・石灰・少量のセメントなどを混合した“半乾燥状態”の材料を使用する。
これは版築(rammed earth)の伝統的材料とほぼ同じ構成で、セメント量を増やすと rammed concrete に近づく。
•層状の積層
1層あたり数センチ〜10cm程度の厚さで材料を入れ、層ごとに圧縮する。
圧縮後は層がそのまま“地層のようなストライプ”として現れる。
•型枠の役割
木製または金属製の型枠をしっかり固定し、その中で突き固める。
型枠の精度が壁の平滑さ・直線性を決める。
☆☆☆GGのつぶやき
Secular Retreat は、ドゥルーズ的には「風景=力の場」に建築が折り重なり、固定的な形式ではなく地形・光・時間の流れと連続する生成的な出来事として読める。版築コンクリートの層は地層のリズムを取り込み、建物は主体ではなく風景の強度を媒介する“平面=プラン”として働く。内部と外部は差異の連続面として滑らかに接続され、居住者は空間を通じて感覚の変調=生成変化を経験する。Secular Retreat は「家」ではなく、風景の力が通り抜ける脱領土化の装置として立ち上がる。