米国とイスラエルによる対イラン戦争は11日目に入り、主要軍事拠点への空爆が続く一方、イランはミサイル・ドローン攻撃を拡大し、周辺国にも戦火が及んでいる。最高指導者の交代という政治的動揺も重なり、国内の統制は強まる一方で、国際インターネット遮断が長期化し、市民生活への影響が深刻化している。
今後のシナリオとしては、第一に、米国が限定的停戦を模索し、湾岸諸国を仲介とする「管理された終息」に向かう可能性がある。第二に、イランが報復を強め、レバノンやイラクの同盟勢力を通じて戦線が拡大する「地域紛争化」のリスクが高い。第三に、原油供給への影響が顕在化すれば、国際市場の混乱を背景に米国が追加攻撃を行い、戦争が長期化するシナリオも否定できない。現状は、いずれの方向にも振れ得る不安定な局面である。
米国は長期戦を避けたい意向が強く、今後は湾岸諸国を仲介とした限定的停戦を足がかりに、段階的な軍事行動縮小へ向かう可能性が高いとみられる。イラン側が報復を抑制すれば、米軍は「主要目標は達成した」と宣言し、作戦の早期終結を図る展開が想定される。一方、原油供給への脅威が続く場合は撤退が遅れ、追加攻撃を伴う「管理された撤収」となるシナリオも残る。
イラン情勢の悪化は原油市場を直撃し、短期的には供給不安から価格が急騰する可能性が高い。ホルムズ海峡の緊張が続けば、1バレルあたりの価格は高止まりし、国内の燃料費や物流コストを押し上げる要因となる。一方、米国が早期停戦に動き、輸送リスクが低下すれば、価格は徐々に安定へ向かうシナリオもある。ただし、地域紛争が長期化すれば再び高騰に転じる不安定な状況である。
然れどもさて置き、本日はピーター・ズントー設計の「Expo 2000 スイス館」を振り返ってみよう。
このスイス館は、木材だけで構成された“音の建築”として、ハノーバー万博(Expo 2000)の中でも特に異彩を放った存在だった。
万博全体テーマ「Humankind – Nature – Technology(人間・自然・技術)」に対し、スイスは“自然素材そのものの存在感”と“音の体験”で応答した点が特徴的だった。
スイス館の核心:「木の塔」としての建築
- スイス館は「Klangkörper(音の身体)」と呼ばれ、約3,000㎡の敷地に、木材を積み上げただけの巨大な構造体として建てられた。
- 釘や接着剤を使わず、ただ積層された木材の重さと摩擦だけで成立するという、極めて原初的かつ大胆な構造。
- ズントーらしい“素材の本質を引き出す”アプローチが徹底され、内部はほの暗く、木の香りと質感が支配する静謐な空間だった。
体験の中心:音響のための建築
- スイス館は「音のパビリオン」として設計され、音響エンジニアのダニエル・オットが参加。
- 内部では、木材の吸音・反射特性を活かした静けさと残響のコントロールが行われ、訪問者は“音に耳を澄ます”体験へと誘われた。
- ズントー建築に特徴的な「感覚の集中」「沈黙の美学」が、万博という喧騒の場で強烈な対比を生んでいた。
ダニエル・オットは「スイス館そのものを一つの楽器=音の身体(Klangkörper)」として成立させるための“音の構想・作曲・現場演出”を担った人物。
ズントーが「素材と空間」をつくり、オットが「音の時間」をつくった。
ダニエル・オットの中心的な役割
•スイス館専用の音楽作品《klangkörperklang》を作曲した
Expo 2000 のために書かれた特別な音楽で、パビリオンの構造・素材・空気感に合わせて設計された作品。
•“音の身体(Klangkörper)”という概念を建築に与えた
スイス館は「木材を積んだ巨大な構造体」ですが、オットはそれを“響きの器”として扱い、建築と音を不可分にした。
彼の音楽は、建築の内部で生まれる残響・吸音・木の密度を前提に構成されている。
建築的意義:万博的スペクタクルへのアンチテーゼ
- 多くの国がハイテク展示や派手な造形で競う中、スイス館は徹底したローテク・素材主義で存在感を示した。
- 建築家ルイス・フェルナンデス=ガリアーノは、ハノーバー万博の雑多な視覚的喧騒を評しつつ、スイス館のような静謐な建築が対照的な価値を示したと論じている。
- ズントーの思想——「建築は感覚の器である」——が、万博という巨大イベントの中で最も純粋な形で提示された例といえる。
背景と位置づけ
- スイスは1995年に参加を正式決定し、2000年6月1日の万博開幕と同時にパビリオンを公開。
- 会場では英国館の隣、フランス館の向かいという主要動線に配置され、静かな佇まいながら強い印象を残した。
- ズントーの国際的評価を決定づけた作品群(テルメ・ヴァルス、ブレゲンツ美術館)と並び、“体験としての建築”を世界に示した転換点とされた。
なぜ今も語られるのか
- 素材の純度:木材のみで構成された建築の極限。
- 体験の純度:視覚よりも聴覚・触覚に訴える空間。
- 思想の純度:万博的スペクタクルから距離を置き、建築の本質を提示。
ズントーの建築哲学が、最も“削ぎ落とされた形”で現れた稀有なプロジェクトであり、建築史的にも重要な位置を占めていた。
memo
スイス・サウンド・ボックスは、約4万本を超える角材を積層して構成された木造パビリオンである。
使用された角材はすべて、施工現場へ搬入される直前に伐採された生材で、主要な壁体を形成する部材は断面100×200ミリ(3.9×7.9インチ)の矩形断面を持つ。
これらの角材は層ごとに方向を変えながら積層され、その間に壁面に対して直交方向に配置された小角材がスペーサーとして挿入されている。
小角材は45×45×544ミリ(1.8×1.8×21.4インチ)で、厚みのある主材の周囲に空気が循環するための通気層を確保する役割を担っていた。
補足解説(構法の理解を深めるために)
●「生木(green state)」を使った理由
•乾燥前の木材はわずかに柔らかく、摩擦力が高い
•ズントーの構法では、釘や接着剤を使わず、自重と摩擦だけで安定させるため、生木の方が都合がよい
•時間とともに乾燥して締まり、構造がより安定する
●45×45×544mm の小片の役割
•角材同士が密着しすぎると空気が滞留し、腐朽のリスクが高まる
•小片を挟むことで空気層が生まれ、通気性が確保される
•音響的にも、微細な空隙が音の減衰・反射を複雑化し、スイス館特有の“音の身体”を形成する
●積層方向を交互に変える意味
•木材の方向を交互に変えることで、積層体全体が一体化し、横方向のずれを防ぐ
•これは伝統的な木組みの知恵に近いが、ズントーはそれを極限まで抽象化している
スイス・サウンド・ボックスで使用されたすべての角材は、施工によって傷つけられることがなかった。
角材はビス留めも釘打ちも接着もされていない。代わりに、積層体は摩擦抵抗によって一体化されていた。
角材は、型枠と足場を用いて正確に積み上げられた。積層後、ステンレス製のテンションロッドとスチール製のスプリングからなる圧縮システムによって締め付けられた。テンションシステムは3メートルごとに配置され、下部では鋼板に、上部では壁を横断するキャップ要素に固定されていた。
スプリングは、木材が常に形を変えるにもかかわらず、圧縮システムが一定の圧力を維持できるようにするための重要な要素だった。
補足:構法の理解を深めるポイント
●「傷つけない構法」の意味
•釘・ビス・接着剤を使わないため、木材は完全にリバーシブル(解体可能)
•摩擦と自重で成立するため、木材そのものの質量と肌理が構造の主役
•ズントーの“素材の尊厳”という思想がそのまま構法になっている
●テンションロッド+スプリングの役割
•生木は乾燥に伴って縮む
•そのままでは積層体が緩むため、スプリングが常に一定の圧力を補正
•これにより、木材の変形を前提にした“呼吸する構造”が成立する
●3メートルごとの圧縮ユニット
•壁全体を均一に締め付けるためのリズム
•木の塔が巨大であるにもかかわらず、局所的な変形を吸収しつつ全体を安定させる
•建築というより、巨大な木製楽器の張力システムに近い
この圧縮システムは、ズントーの「素材の自然な変化を抑え込まず、むしろ構造に取り込む」という思想が最も鮮明に現れた部分である。
☆☆☆GGのつぶやき
スイス館は、木材の湿り気や軋みが直接身体に作用する強度の場をつくり、万博的スペクタクルの視覚中心性を脱領土化した。素材の生が発する微細な差異が連続的に生成し、来訪者は環境との共振を通じて新たな感覚のリゾームへと接続される。ズントーは建築を表象ではなく、身体と環境が編む生成プロセスとして提示した。