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山本理顕設計工場の「ドラゴン・リリーさんの家」を読み解く

山本理顕の2024年度プリツカー賞受賞が基因となり、あらためて山本の主要作品を読み解いている。

本日は、「ドラゴン・リリーさんの家」を読み解いてみよう。
場所は、桐生市相老駅西から北に徒歩約5分の相生町2丁目にある。


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「ドラゴン・リリーさんの家」

相生町郊外の住宅地に建つ鉄骨造平屋の個人住宅。


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外周がLow-Eペアガラスの住宅用引き違いサッシの開口。


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外から内部が透けて見える大胆な構造。


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曲面壁により大きな隙間と小さな隙間がデザインされている。


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山本は次のように語る。

「戸建て住宅においても、建築が社会と関係を結ぶことは可能だというのが私の意見。」


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「ドラゴン・リリーさんの家」は街の公共施設のような住宅。

四方のほとんどがガラス張りになっていて、家の中は外からまる見えになっている。


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施主は薄手のカーテンをかける以外はまる見えのままに住んでいる。


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生活が外からまる見えになっていることに、何の抵抗も抱かないオーナー。


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初めからガラス張りの住宅にすることを前提にして設計されている。


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建物の道路を挟んだ先には私鉄が走っており、ガラス張りのように見えている。


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近所の子どもたち以外は、あまり中をのぞき込むような人はいないという。


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台所の風景を見て違和感を覚える人もいる。台所を家の中で一番プライバシーの高いところだと思う。


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それを外に開くというのは、とても抵抗がある。ところが一度開いてしまった途端に何の抵抗もなく使えてしまうというのはおもしろい。


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この住宅は夜になると周辺を明るく照らす。敷地の周辺はなんとなく暗い街だったが、それが少しだけ変わったように思うという。


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施主が非常に活動的な方で、周辺に対してオープンに住んでいるので、周辺の人たちともそれまでになかった関係を築くことができたのではないかという。


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山本が一貫して唱える「地域社会圏」という考え方が思いだされる。

「住宅も地域社会の一部なのだと思う。地域社会は現在はほとんど崩壊しつつある。しかしそれは住宅のつくり方にも原因があると思う。」と語る。


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民間の業者が提供している住宅は、壁と生垣で内部がまったく見えないようにつくっている。そんな住宅でつくられた街並みが地域社会をつくっていけるはずがない。しかしこのような住宅がひとつできるだけでも、そういった状況は変わっていくのではないかと思うと語る。


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memo

「地域社会圏」という考え方/山本理顕

日時:2008年11月27日(木)17:00~
場所:南御堂(大阪)


Part-1 「地域社会圏」とは

1-1 「1住宅=1家族」システム

1-2 国家をつくるシステムの誕生

1-3 日本における
「1住宅=1家族」システムの誕生

1-4 パッケージ商品化された住宅

1-5 「地域社会圏」システム

1-6 モデル住宅

1-7 「地域社会圏」のメリット

1-8 小規模多機能施設

1-9 コンビニエンスストア

1-10 地産地商地消

1-11 デットストック

1-12 保険システム

1-13 ボランティア

1-14 建築家ができること

1-15 住戸プラン

1-16 セキュリティ

1-17 維持管理



Part-2 東雲キャナルコートCODAN 1街区


Part-3 ドラゴン・リリーさんの家


Part-4 PAN-GYO HOUSING







☆☆☆GGのつぶやき
山本理顕設計工場の「ドラゴン・リリーさんの家」を読み解きつつ、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。




# by my8686 | 2024-03-23 23:23 | 気になる建築&空間 | Trackback

名残雪の朝 21/Mar/2024

昨日早朝、名残雪を愛でる。


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切株が語りかけてくる。


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遠くの杉林が揺れている。


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さらに遠くの山に煙る雪景色。


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まるでアンセルアダムスの世界。
大自然の記念碑的美しさに魅入られたアダムスのフォトを思い出す。

ここ広島北部の郊外にも、強く、美しく、一点の迷いも汚れもない日本の風景がある。


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自宅近くの散歩ルートで出会う好きな景色のひとつだ。


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霧の早朝、お気に入りの林道をポタリングで楽しむ。

新しい相棒となった「ストリートMTB」。
ALUXX-Grade Aluminumフレーム採用モデル。

最高水準の重量剛性比が実現されているという。ちなみにエンド幅は135㎜。
高剛性フレームと極太スリックタイヤが生み出す盤石の安定感とスポーツ性能がお気に入りだ。



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フロントフォーク:SR SUNTOUR XCE 80mm Travel
ギアクランク:PROWHEEL BURNER
変速パーツ:SHIMANO TOURNEY TX / EF41
ブレーキセット:TEKTRO 837AL
タイヤ:KENDA KRANIUM 26x2.1
シフト段数:21 Speed


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いつもの散歩道で挨拶するススキ。
厳しい冬にも逞しく凛とした姿が好きだ。

花言葉は、「活力」「生命力」「精力」「なびく心」「憂い」「心が通じる」「悔いのない青春」「隠退」・・・。
花言葉も哲学的だ。


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ススキという名称の由来にも心が動く。

ススキという名前の由来には2つの有力説あり。

1つ目は、2メートルほどまで伸びる生命力の強いススキは、まっすぐに伸び、白い穂をつける。
そのため、「スス」はスクスクとまっすぐに育つ様子を表し、「キ」は茎や草、芽が萌え出るという意味の「萌」という意味があるという。

2つ目は、神様に捧げる舞「神楽」。舞の時に手に持って使われる手草で稲穂の代わりにススキが用いられていたという。そのため、ススキは清らかという意味合いがあるそうな。

「スス(スズ)」は清々しい、清らかで、「キ」は「禾」(穀物の総称)を持った者が由来とされる。

一説では、ススキの茎の中は空洞になっており、その中には神様が宿るという。硬いススキの茎はとても鋭く、魔除けとして使われてきたという。そうした由来から神が宿り、魔除けになるススキ。災いから人々を守ってくれると言う意味合いで、豊作祈願として十五夜でススキが使われるようになったという。


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遅咲きの寒椿。厳しい寒さの中、艶やかに咲く姿が共振現象を誘発してくる。


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クリスマスローズの可憐さに頬が緩む。


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花言葉は、「いたわり」「追憶」「慰め」。


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ナンテンの可愛いらしさも好きになった。
花言葉は、「福をなす」「よい家庭」「幸せ」「機知に富む」。


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沈丁花も咲き始めた。
花言葉は、栄光、不死、不滅、永遠、青春の喜び、信頼、自然美。


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モッコウバラも蕾が膨らみはじめた。
花言葉は、「純潔」「初恋」「素朴な美」。


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ひかり輝くつるの雫についみとれる。


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☆☆☆GGのつぶやき
名残雪の朝を愛でつつ、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。




# by my8686 | 2024-03-22 22:22 | 徒然なるままに | Trackback

山本理顕設計工場の「宇都宮大学オプティクス教育研究センター」を読み解く

山本理顕の2024年度プリツカー賞受賞が基因となり、あらためて山本の主要作品を読み解いている。


本日は、「宇都宮大学オプティクス教育研究センター」を読み解いてみたい。
場所は、JR宇都宮駅から東に車で約12分の宇都宮市陽東にある。


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このセンターは、「シミュレーションの旅」でも一度訪れている。
あらためて、もう一度ふりかえってみるとしよう。



「宇都宮大学 オプティクス教育研究センター」

建築家・山本理顕設計による栃木県宇都宮市にある教育・研究施設。


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ステンレスプレートを市松模様に配置したファサードが特徴的だ。
周囲の風景を映し出す鏡面仕上げが共振現象を誘発してくる。


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しかしこの面以外はコンクリート打ちっ放し壁となっている。


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この施設は、光学技術の研究・教育のための施設である。

「光」に関する先端的な研究・教育の拠点となるこの施設において、それを象徴するシンボルのようなファサードがデザインされている。


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ファサードは、建物本体の外壁から持ち出したワイヤーに、100mm角のステンレスプレートを市松状に吊るしているだけのシンプルなもの。


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ステンレスプレートの表面には鏡面仕上げが施され、周りの風景が映り込む。


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厚さ0.5mmの薄いプレートは、その一辺でワイヤーに吊るされているだけだが、風が吹くとゆらゆらと揺れる。


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わずかに角度が振れるだけで映り込む風景が変わり、季節や光のあたり方、風の流れの変化によって様々な表情を見せる。


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この表情を見つめていると、ドゥルーズのあの言葉を思い出していた。


「持続と延長、継起と同時性、質と量、の混同」を明らかにし、時間の本質を持続として把握することによって自由を確保する。

En clarifiant la « confusion de la durée et de l'extension, de la succession et de la simultanéité, de la qualité et de la quantité », nous garantissons la liberté en saisissant l'essence du temps en tant que durée.


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ベルクソンにとって重要なことは〈多様なものle Multiple〉を〈一なるものl’Un〉と対立させることではなく 、二つのタイプの多様体を区別することである。

L'important pour Bergson n'est pas d'opposer « le Multiple » à « l'Un », mais de distinguer les deux types de variétés.


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リーマンは、〈さまざまなもの les choses〉をその次元または独立変数に応じて規定しうる《諸多様体》として定義し、また、離散的多様体と連続的多様体とを区別した。


Riemann a défini « les choses » comme des « variétés » qui peuvent être définies en fonction de leurs dimensions ou de variables indépendantes, et a également fait la distinction entre les variétés discrètes et continues.



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前者には計量の原理が含まれる。それらの部分の測定は、その部分のなかの要素の数によって与えられる。

Le premier implique le principe de la pesée. La mesure de ces pièces est donnée par le nombre d'éléments dans la pièce.


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後者は、それら多様体のなかで展開される現象か、あるいは多様体のなかで働く力でしかなくても、そのような別の物のなかに計量の原理を見出した。

Ce dernier trouve le principe de mesure dans d'autres choses, qu'il s'agisse seulement des phénomènes qui se déroulent dans ces variétés, ou des forces qui y agissent.



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重要なのは、混合したもの(mitxte)の分解が《多様体》の二つのタイプを私たちに示すということである。

Le fait est que la décomposition du mélange (mitxte) nous montre deux types de « collecteurs ».


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そのうちのひとつは空間によって(あるいはむしろ、あらゆるニュアンスを考慮に入れるならば、均質的な時間の不純な混同によって)表象される。

L'un d'eux est représenté par l'espace (ou plutôt, si l'on tient compte de toutes les nuances, par une confusion impure de temps homogène).


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それは外在性・同時性・並置・秩序・量的差異・程度の差異の多様体であり、すなわち非連続で現働的な数的多様体である。

C'est une variété d'externalité, de simultanéité, de juxtaposition, d'ordre, de différence quantitative et de différence de degré, c'est-à-dire une variété numérique discontinue et active.


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もうひとつのタイプは純粋な持続として存在する。

Un autre type existe sous forme de durée pure.


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それは継起・融合・組織化・異質性・質的区別または本性の差異の内的多様体であり、すなわち数に還元不可能な、潜在的で連続的な多様体である。

C'est une variété interne de succession, de fusion, d'organisation, d'hétérogénéité, de distinction qualitative ou de différence de nature, c'est-à-dire une variété implicite et continue irréductible aux nombres.


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☆☆☆GGのつぶやき
山本理顕設計工場の「宇都宮大学オプティクス教育研究センター」を読み解きつつ、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。




# by my8686 | 2024-03-21 21:21 | 気になる建築&空間 | Trackback

山本理顕設計工場の「パンギョ・ハウジング」を読み解く

山本理顕の2024年度プリツカー賞受賞が基因となり、あらためて山本の主要作品を読み解いている。

本日は、韓国城南市の「パンギョ・ハウジング」を読み解いてみよう。
場所は、板橋地区内の自然勾配を利用した西板橋一帯の京畿道(キョンギド)にある。


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「パンギョ・ハウジング」

自然勾配を利用したテラスハウス型の住宅団地。


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この団地は、指名設計制度を通じて選定された国外の有名建築家3人を迎え、容積率65%、4階以下の低密度親環境住宅団地を造成している。


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住宅は世帯ごとにテラスを設置した傾斜地に建つ連立住宅。テラスハウスは、階下の家の屋根がすぐ階上の家のテラス部分となる構造。


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「3人の指定建築家」

1.フィンランドのペッカ・ヘリン

98世帯

2.日本の山本理顕

100世帯

3.米国のマーク・マック

102世帯

合計300世帯、109㎡~207㎡ 30の多様な中大型規模が設計されている。
入居は住宅別に2009年11月~2010年5月まで、段階的に行われた。


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あらためて、山本理顕のコンペ提案プランを見てみよう。


これはまさに「共同体内共同体」を実現するための方法をかなり意識した住宅となっている。


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3階建てから4階建ての住棟によって形成されるクラスターに10世帯から12世帯が住んでいる。
一番小さなユニットで163㎡、一番大きなユニットで254㎡の延床面積がある。


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2階のガラス張りの玄関から上階に行くと、子ども部屋がふたつ並んでいる。
階下にはリビングルームがあり、中庭を挟んだ反対側がベッドルーム。
住宅が上下に分かれていて真ん中が外部に対して開いているという住居になっている。


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コモンデッキに面している2階のガラス張りの玄関部分を「闘」と呼んでいる。


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「閾」というのは『住居論』でも記しているが、ひとつの家族つまり「小さな共同体」と「大きな共同体」との間を調停する役割を担う場所のこと。酒を飲んだり、音楽室にしたり、オフィスにしたり、外に対して開いていても差し支えないようなさまざまな用途を提案している。


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「東雲キャナルコートCODAN1街区」にはガラス張りのオフィスがある。それを大々的にやったのがこの「パンギョ・ハウジング」である。

敷地が斜面になっているので南北方向にオープンな場所が連続し、こうしたかなり大胆で、これまであまり見たことのないような集合形式の住宅になっている。山本はいくつかの住宅や集合住宅を手がけながら、「一住宅一家族」に基づくような住宅の供給システムではなく、地域社会を誘導するような住宅のつくり方を模索している。


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「パンギョ・ハウジング」は、それが形になったひとつの例だという。
韓国もやはり住宅を「一住宅一家族」で供給してきたから、将来どのように住まわれるのかが興味ぶかいと語っている。

「東雲キャナルコートCODAN1街区」でも、あるフロアではガラス張りの玄関を住民の方々がとても楽しそうに使っている一方で、あるフロアではそうでなかったりする。誰かがある住み方を始めると、皆それに誘導されて同じ住み方をするようになるようだという。
だから「パンギョ・ハウジング」でも住人たちが初めて入居する前に、公団と何らかの住み方のモデルをつくるとうまくいくのではないかと思ったという。


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具体的に見てみよう。

各クラスターは、10戸程度の住宅が集まってできており、コモンデッキがそれぞれの住宅をつないでいる。
駐車場は地下に配置され、エレベーターで直接コモンデッキにアクセスできるようになっている。


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各住宅は、1階が家族のためのリビングルーム、2階が大きな玄関、3階がベッドルームという3層構造である。
2階の大きな玄関はガラス張りの空間で、コモンデッキに対して可能な限り開かれた空間となっている。
この場所は、それぞれの住宅に住む人々が自由に使い方を考えることができる。


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趣味の部屋として使う人もいれば、仕事場として使う人もいる。
応接間としてもよく、学校帰りの子供たちの遊び場にしてもよい。

内側の家族だけでなく、近隣を意識して使う「コミュニティエリア」が提案されている。


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山本は、次のように語っている。

「家族のプライバシーと近隣とのコミュニティは相互に矛盾する。それを両立するためにはどのような方法が考えられのか。コモンデッキとオープンな玄関ホールは、その方法のひとつである。」


しかし販売初期は、扉を透明ガラスにしたこのハウジングは、私生活を侵害すると非難され売れ残ってしまったという。
しかし、プリツカー賞を主管する米ハイアット財団は「公的な領域と私的な領域の境界を崩して、建築を通じて調和がとれた社会をつくるのに貢献した」と選定理由を明らかにしている。

山本は「コミュニティとは『一つの空間を共有する感覚』だが、今日の建築は私生活を強調するあまり隣人と関係なく住宅を商品化する」と批判する。


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調和して共に暮らすことを重視する山本の建築キーワードは透明性だ。
「内部からはその向こうにある環境を体験でき、通り過ぎる人からは帰属意識を感じることができる」。

非凡な材料で独善的な外観を誇るより、日常に染み込んで利用者の生き方を徐々に変化させるのが山本の建築の美徳なのだ。
「未来の都市では人々が集まって相互作用する機会を増やさなければいけない」とし「山本は日常の品格を高める建築家であり、彼の手にかかれば平凡が特別になる」と評価されている。


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☆☆☆GGのつぶやき
「ソウル江南ハウジング」と同様に、地域にひらかれた「地域社会圏」に基づいた住宅の提案である。日本の経済優先の管理主義のなかでは実現しにくい提案でもある。韓国の人々の住まうことへの主体性の在りように、共振現象が誘発されてくる。

山本理顕設計工場の「パンギョ・ハウジング」を読み解きつつ、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。




# by my8686 | 2024-03-20 20:20 | 気になる建築&空間 | Trackback

山本理顕設計工場の「天津図書館」を読み解く

山本理顕の2024年度プリツカー賞受賞が基因となり、あらためて山本の主要作品を読み解いている。

本日は、中国・天津市の「天津図書館」を読み解いてみよう。
場所は、天津市の文化エリア内。



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「天津図書館」


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延床面積55,000㎡、収蔵冊数500万冊という大規模な図書館。


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全体はグリット状に配された壁で構成され、その壁が上下で直行方向に交差しながら重なる。


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さらに、5層の建築のそれぞれの層の中間にメザニン階(Mezzanine:中二階)を設けているため錯綜した10層の建築に見える。
壁の構造は鉄骨のトラス。


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図書館1階中央には、南北方向に抜けるエントランスホールがあり、誰でも気軽に図書館にアクセスすることができる。


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ホール上空には壁梁がはしり、そこに本棚が配され、図書館全体が、本棚に囲まれたような空間がデザインされている。


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交差した壁は、開放的な大きな空間をつくる一方で、分節された小さな空間もつくる。


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来館者は、図書館を巡りながら様々な場所で本を読むことができる。


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山本理顕は某講習会で次のように語っている。

「中国は書物に対して非常に敬意を払う国で、ものすごくたくさんの全集がある。中国の学者たちは学業の最後に自分の全集をつくるのが目標とされている。」


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「だからその学者たちのたくさんの全集がここに収められていて、もちろんあれだけの歴史を持った人たちだから、本というものが自分たちの知識を伝える最も重要な方法だということをよく知っている。市立図書館でこれだけの大きさが必要だとは、最初は信じられなかったが、蔵書を見せてもらったら、なるほどと思った。」


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一辺は110メートルほどの大きさ。膨大な量の本があるのであらゆる壁が本棚に使えるような構造体がデザインされている。
すべての壁が梁になり、その上に梁の上に梁がのり、また梁がのる建築。

下からはいろんな梁が空中を飛んでいるように見える。すべての階のプランが違うので、断面を描いても切る所によってすべて梁の位置が変わる。



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さまざまな場所に本が飾られていて、それが全体の構造体となり、図書館の表情にもなっている。
壁面のエリアサインがその多様性を賦活化している。


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コンペ設計案のプロセスをみると、どこまでも連続する壁が各階でずれるという初期のアイデアから、直行する壁が上下階で交差する構造に変化している。


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大規模な図書館だからこそ、本を読む場所が均一にならないように、できるだけ多様な場所が生まれるようにプランニングされている。


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コンペ時の提案では、全面ガラスのダブルスキンだったが、天津は黄砂が激しく、全面ガラスは避けてほしいと言われたという。
さらに、隣接する博物館や美術館と同じ種類の石外装を要求され、できるだけ透明感を出すために、ルーバーを解決策に選んでいる。


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結果的には、閲覧室への柔らかい外光を導いている。


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この建物は、高松伸設計の「天津博物館」のすぐ横に建てられており、図書館・美術館・博物館・音楽用のホールが同時に四つ完成するという非常に巨大な計画のひとつとなっている。


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このエリアは一度訪ねてみたい。
しかし、天津は中国の中でも治安の良い都市と言われているが、中国の「反スパイ法」改訂以後の動きには注意がいりそうだ。




☆☆☆GGのつぶやき
山本理顕設計工場の「天津図書館」を読み解きつつ、心に移りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。



# by my8686 | 2024-03-19 19:19 | 気になる建築&空間 | Trackback