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F.Y.I 都市的リゾーム「Perelman Performing Arts Center」を読み解く

ニューヨーク、ワールドトレードセンター跡地に2023年オープンした〈Perelman Performing Arts Center(PAC NYC)〉を、建築・都市空間・社会的文脈の三層から読み解いてみよう。



Perelman Performing Arts Center(2023)

設計:REX(Joshua Ramus)
場所:ニューヨーク、ワールドトレードセンター跡地(WTC)
開館:2023年9月13日


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1. 都市的文脈:WTC再建計画の「最後の公共施設」

PAC NYCは、16エーカーに及ぶWTC跡地再開発の最後の公共施設として位置づけられている。
グラウンドゼロという極めて象徴的な場所において、追悼の空間(9/11メモリアル)と商業・オフィスの再生(One WTCなど)の間に、文化と市民性を回復するための「第三の柱」として設計された。



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2000年代初頭から構想され、2014年の国際コンペを経てREXが選定された。



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マイケル・ブルームバーグ前NY市長が主導し、現在は理事長として運営に関与している。
この施設は、単なる劇場ではなく、「都市の再生を象徴する文化的灯台」としての役割を担っている。



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2. 建築の特徴:大理石×ガラスの“光る立方体”

■ 外観:半透明の大理石パネル

外観はポルトガル産大理石をガラスと積層したパネルで覆われた立方体。
昼と夜で表情が劇的に変わる。

- 昼:大理石の模様が浮かび上がり、重厚な“石の立方体”
- 夜:内部の光が透過し、柔らかく発光する“ランタン”のような存在

このパネルは美観だけでなく、断熱性能を持つ外皮として機能し、エネルギー効率にも寄与している。



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PACの大理石×ガラスパネルの原理

「石なのに光を通す」仕組みを科学的に読み解く

1. 素材:半透明の大理石(トランスルーセント・マーブル)

大理石は本来不透明だが、結晶粒が細かく均質な大理石は“光を散乱しながら透過”する性質を持つ。

・ポルトガル産のルシオネ大理石は、結晶が細かく、不純物が少なく、光を柔らかく通す。
・建築用の“透過石材”として理想的とされる。

つまり、PACの外皮は「光を通す石」×「透明なガラス」という異素材の組み合わせが前提になっている。



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■ 内部構成:3つの劇場 × 60通り以上の組み合わせ
REXの設計の核心は、劇場空間の可変性にある。

- 3つの主要劇場(約90席〜950席)
- 可動壁・可動床・音響調整により60以上のレイアウトを生成可能

これにより、音楽、演劇、ダンス、オペラ、映画、実験的パフォーマンスなど、あらゆるジャンルに対応する。



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■ PAC の可変劇場システムの原理

〜3つの劇場を「合体・分割・変形」させる空間エンジン〜

1. 基本構造:3つの劇場は“独立モジュール”として設計されている

PAC の内部には

- The John E. Zuccotti Theater
- The Mike Nichols Theater
- The Doris Duke Theater
の3つがあり、これらは完全に独立した箱(volume)として成立している。


● 重要なのは「壁」ではなく「箱」そのものが可動的に扱える点

- 各劇場は音響的に自立した空間ユニット
- それぞれが可動壁・可動床・可動天井を持つ
- 3つの箱を組み合わせたり、貫通させたり、連結したりできる

つまり、PAC は「3つの部屋」ではなく、3つの“変形可能な空間ブロック”を持つ建築である。


2. 可動壁システム:巨大な“スライディング・アコースティック・ウォール”

PAC の可動壁は、一般的な可動パネルではなく、音響性能を持つ厚い壁そのものが移動するという点が革新的である。

● 特徴

- 数トン級の壁がレール上を移動
- 壁内部に吸音・反射・拡散の要素を組み込む
- 壁の位置により
- 客席数
- 舞台の奥行き
- 舞台と客席の関係(プロセニアム/スラスト/アリーナ)
を自在に変更

● 劇場の“形態”そのものが変わる

- プロセニアム型
- スラスト型
- アリーナ型
- ボックス型
- ランウェイ型
- 二面舞台/三面舞台

など、劇場の類型を超えて変形できる。


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3. 可動床システム:ステージと客席の“上下反転”

PAC の床は、舞台と客席の高さ関係を完全に再構成できる昇降床を採用。

● できること

- 客席をフラットにしてダンスホール化
- 舞台を高くしてオペラ向けに
- 客席を段床にして演劇向けに
- 舞台を中央にしてアリーナ化
- 床をすべて同一高さにして展示空間化

つまり、床の高さが劇場の性格を決定するという思想。



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4. 音響システム:空間の変形に合わせて“音場”も変形

可変劇場の最大の課題は音響だが、PAC はこれを可動壁 × 可動天井 × 可動バナー(吸音幕)で解決している。


● 音響の可変要素

- 壁の材質面(反射/吸音)を切り替え
- 天井の反射板の角度を調整
- 吸音幕を出し入れして残響時間を調整
- 劇場の連結時は音響的に“ひとつの大空間”として再調整

結果として、オペラ(長い残響)から演劇(短い残響)まで対応できる。



5. 組み合わせの原理:3つの劇場 × 可動壁 × 可動床 × 音響調整

PACの可変劇場は、3つの独立劇場を可動壁・可動床・音響調整で自在に連結・分割し、舞台形状や客席配置、残響特性を総合的に変化させるシステムである。
劇場の箱そのものをモジュール化し、形態・規模・音場を同時に再構成することで、60通り以上の空間バリエーションを生成する。


※PAC の可変劇場は、ドゥルーズが語る「器官なき身体(BwO)」のように、固定的な形態や機能を前提とせず、常に“生成変化する潜在的空間”として存在する。3つの劇場は個別の単位ではなく、可動壁・可動床・音響設定によって連結・分岐し、プロセニアムやアリーナといった既存の劇場類型を横断しながら、新たな配置へと差異化し続ける。ここでは空間は表象ではなく“力の分布”として扱われ、パフォーマンスの要請に応じて実体化する。PAC は劇場を与える建築ではなく、差異の連続的変調によって劇場そのものを生成するリゾーム的装置であり、固定的中心を持たない「出来事の場」として機能する。




■ ロビーと公共性

- ロビーは誰でも無料で入れる公共空間
- 無料パフォーマンスやイベントも開催
- レストラン、バー、屋外テラスを併設



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WTCという場所において、開かれた市民空間としての役割を強く意識している。



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3. プログラム:多様性とレジリエンスをテーマにした初年度

2023/24のオープニングシーズンは、「Refuge(避難所/拠り所)」をテーマにしたシリーズで構成されている。

- Home as Refuge
- Faith as Refuge
- School as Refuge
- Family as Refuge
- Memory as Refuge


音楽・ダンス・演劇・映画などを横断し、ニューヨークの多文化性とレジリエンス(回復力)を祝福する内容となった。



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4. 建築思想:REXの「柔らかい機能」と「硬い外皮」

REXのJoshua Ramusは、PAC NYCを“外側は静謐で象徴的、内部は極限まで柔軟”という二重構造として設計されている。

- 外側:WTCの文脈にふさわしい記念碑性
- 内側:現代のパフォーミングアーツに必要な可変性・実験性

この対比は、都市の記憶と未来の創造を同時に抱える建築として非常に象徴的である。



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ワールドトレードセンターの縁に、暗いクッションの上に置かれた豪奢なパズル箱のような建物が佇んでいる。その表面は大理石のタイルを敷き詰めたモザイクで、石目が各面に菱形の波紋を描くように配置されている。内部にはさらに箱があり、その中にもいくつもの区画が隠されていて、仕切りをスライドさせて分割したり、ひとつの大きな空間にまとめたりできる。

昼間、この建物はクリーム色で不透明な塊となり、遠くから眺めるのが最も美しい彫刻のようだ。
夕暮れになると内部から光を放ち、外皮が石でできた半透明の膜であることが姿を現す。



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5. 社会的意義:追悼から共創へ

PAC NYCは、9/11以降のニューヨークが抱えてきた喪失・再生・多様性・共存というテーマを、建築と芸術の両面から体現している。

- 追悼の場の隣に、創造の場を置く
- 市民が集い、語り、表現するための公共文化施設
- 夜に光を放つ姿は、都市の希望の象徴

WTC再建の最終章として、「記憶の都市」から「未来をつくる都市」への転換点を示す存在と言える。



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6. まとめ

Perelman Performing Arts Center(2023)は、建築的革新 × 都市的象徴性 × 社会的包摂性が高度に統合された、21世紀の文化施設の代表例である。

- 大理石×ガラスの光る立方体
- 60通り以上の可変劇場
- WTC再建の最後の公共施設
- 多様性とレジリエンスを祝うプログラム

都市の記憶を抱えながら、未来の文化を育てる“都市の灯台”として機能している。


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memo

new york CURBED より


このセンターは、9/11後の復興が始まったばかりの頃に掲げられたひとつの約束を、そっと形にしている──

荒れ果てた場所に、再び芸術の灯をともすという約束を。
その思いに突き動かされた人々のあいだでは、1963年、JFK暗殺の直後にレナード・バーンスタインが記した言葉が、静かに行き交った。
「暴力への私たちの応答はこうだ──これまで以上に強く、美しく、献身的に音楽をつくることだ。」
その響きには、どうしようもなく心をつかむロマンがある。

サラエボの廃墟でアルビノーニのアダージョを奏でた孤独なチェリストの姿がよみがえるし、あるいは、空襲警報の鳴り響く中でも演奏を続けたリヴィウ国立フィルハーモニー交響楽団の光景が胸に浮かぶ。けれど、そこにはどんな真実が潜んでいるのだろう。

芸術と残虐さは、いつの時代も同じ地平に存在してきた。そして、前者が後者を鎮める力を持つようには、どうしても思えない。
フルトン通りとグリニッジ通りの角でどんな舞台が繰り広げられていようと、それを気に留めるテロリストの姿を想像するのは難しい。

それでも、あのバーンスタイン的な応答は、ようやく形となって届けられようとしている。
建築そのものと同じく、控えめな輝きにそっと包まれながら。

ここに至るまでには、芸術の勇気だけでなく、政治的な後押しや5億ドル規模の建設費、そしてリンカーン・センターほどの規模こそないものの、学際的な野心を抱く新たな文化機関の創設が必要だった。(命名権のためにロナルド・O・パレルマンが7,500万ドル、マイケル・ブルームバーグが1億3,000万ドル、さらに連邦資金によるロウアー・マンハッタン開発公社から1億ドル──残りは小口の寄付で満たされた。)

だが、この場所が持つ象徴的な力は、現実的な疑念によっていまだ釣り合いを取られている。
ニューヨーク最初の劇場街はこの近くに生まれたものの、19世紀初頭にはすでに文化の流れは北へと移り、現在の金融街は200年ものあいだ、舞台芸術の世界から外れたままだ。
それが今、変わるのかどうかは誰にもわからない。

近年、住民は増え、新築の建物やアールデコのオフィス塔を改装した住まいに人が入り始めている。
それでもこの街は、いまだに「朝のラッシュから夕方のラッシュまで」の顔をしたエリアであり、いまや借り手を探すのに苦労する古びた職場がひしめいている。
ペレルマンは、そんな街区が抱えるアイデンティティの揺らぎを、つややかに映し出す存在でもある。

そして今、このセンターは、全米で名だたる劇団が姿を消し、BAMやパブリック・シアターでさえ人員削減を余儀なくされている──
そんな深い演劇不況のただ中に、三つの新しい舞台を開こうとしている。

「いま劇場を運営するのは、五年前よりずっと難しいんです。業界全体が、もう一度立て直しをしている最中ですから」
そう語るのは、ペレルマンのエグゼクティブ・ディレクター、カディ・カマラ。
パンデミックによる閉鎖のあと、観客は戻りつつある──けれど、その歩みは驚くほどゆっくりだ、と彼女は言う。

では、ひとつの危機の中で構想され、別の危機の中で生まれ、劇場的想像力を高めるための建物を与えられ、象徴的にも経済的にも重い荷を背負った、この新参者は──
文化の地図の上で、どうやって自分だけの場所を切り開くのだろう。

答えは、ええと……『キャッツ』である。

たとえ、数マイル北の街で7,485回も上演されてきた作品であっても──
ザイロン・レヴィングストンとペレルマンの芸術監督ビル・ラウシュが手がける新演出が、まだどこかに新しい光を宿している、と想像してみよう。

そして、2024年6月の開幕までのあいだ、ペレルマンの観客はもっと刺激的な作品にも出会えるはずだ、と仮に認めてみよう。
たとえば、ビル・T・ジョーンズとマーク・バムシ・ジョセフによる『ウォッチ・ナイト』──
「アメリカの暴力によって汚された聖域を、ハリウッド向けの物語を求めて訪れる野心的な記者」を描く作品のような。

さらに、初日の幕が上がる前に作品群を判断することなど、本来できるはずもない──
そのことも、ひとまず受け入れてみよう。

それでもなお、ペレルマンのこけら落としとなる演目のラインナップ──
避難をテーマにした世界音楽フェスティバルから、絹のような声を持つ“ミスター・ブロードウェイ”ブライアン・ストークス・ミッチェルの夜まで──
そのどれを取っても、この新しい劇場が自らのビジョンに揺るぎない確信を抱いている、とは言いがたい。




☆☆☆GGのつぶやき
ドゥルーズ的に読むと、パレルマン・パフォーミングアーツ・センターは、分断が深まるアメリカ社会の中で「統合」を目指す装置ではなく、異質な線同士が触れ合う“生成の場”として立ち上がる。金融街という文化の周縁に位置すること自体が、中心から外れた場所で新しい連結が生まれるというリゾーム的発想に重なる。劇場は固定的なアイデンティティを持つのではなく、社会の緊張や断絶に応じて形を変える可変的な機械として機能し、異なる声が共存しうる多様体をつくり出す。芸術は分断を癒す力を持つわけではないが、異なる線が交差する接続点を生み出すことで、未来を「確立された形」ではなく「連続的な変形」として開いていく。パレルマンはその揺らぎの中で、分断の時代における文化の新たな可能性を模索する場となっている。




# by my8686 | 2026-02-06 06:06 | 気になる建築&空間 | Trackback

F.Y.I 都市的リゾーム「The Domino Park / Domino Sugar Refinery Redevelopment」を読み解く

Domino Park と Domino Sugar Refinery Redevelopment は、ニューヨークの都市再生の象徴ともいえる存在で、歴史・デザイン・都市計画が美しく絡み合ったプロジェクトである。
あらためて、ブルックリンの産業遺産が「未来の公共空間」へ生まれ変わる物語として読み解いてみよう。



Domino Park(2018年オープン)

11エーカー(約4.5ヘクタール)に及ぶ Domino Sugar 工場跡地の再開発の一環として誕生したウォーターフロント公園。


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住所(参考)

Domino Park
300 Kent Avenue, Brooklyn, NY 11249, USA

Domino Sugar Refinery(再開発エリア)
Kent Avenue 沿いの 292–320 番地周辺
※敷地が広いため単一住所ではなく、エリア全体を指す。



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特徴

・全長5ブロックにわたるリバーサイドの遊歩道
イースト川沿いに広がり、マンハッタンの絶景が楽しめる。


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・Artifact Walk(アーティファクト・ウォーク)
工場から salvaged(保存)された30以上の巨大機械を展示し、製糖工場の歴史を歩きながら体感できる。



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・アクティブゾーンとパッシブゾーンの構成
南側はアクティブ(遊具・スポーツ)、北側は静かな散策エリアへと移り変わる設計。



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デザイン

- 設計:James Corner Field Operations(High Line の設計者)
- 工場の遺構を「アート」として再構成し、歴史と現代デザインが融合。


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Domino Sugar Refinery Redevelopment
― 産業遺産を核にした巨大な都市再生プロジェクト


概要

- 開発者:Two Trees Management
- マスタープラン:SHoP Architects
- 敷地面積:11エーカー
- 総工費:約30億ドル


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再開発の目的

- 工場跡地を住宅・オフィス・公共空間が共存する新しい街区へ転換
- ウィリアムズバーグとウォーターフロントを再びつなぐ
- 公共空間を60%増やし、地域に開かれた街づくりを実現


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主な建築物

- Domino Sugar Refinery(歴史的製糖工場)
レンガ造りのランドマーク建築を保存しつつ、内部をオフィスに再生。
- 325 Kent(2017)
- One South First / Ten Grand(2019)
- One Domino Square(2024)
- Site B(最終区画、建設中)

建物の多くは、巨大な「開口部」を設けて光と風を通し、街区全体に自然環境を取り込む設計が特徴。



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Domino Park と Redevelopment の関係

Domino Park は単なる「公園」ではなく、再開発全体の“背骨”となる公共空間。

- 工場の歴史を保存しつつ、
- 新しい住宅・オフィス・商業施設をつなぎ、
- 地域住民と訪問者が集う「共有の場」をつくる役割を担う。

都市再生において、歴史の継承 × 公共空間 × 民間開発が高いレベルで統合された稀有な事例といえる。



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なぜこのプロジェクトが特別なのか

- 産業遺産を壊さず「再解釈」して未来へつなぐ姿勢
- 公共空間を中心に据えた都市開発
- ウォーターフロントを市民に取り戻すデザイン
- 歴史・文化・生活が共存する新しい街区の創出

都市デザインの観点からも、世界的に評価される理由がよくわかる。




memo

原弘司的に読むなら、Domino Park/Domino Sugar 再開発は「歴史を保存する」でも「未来へ飛躍する」でもなく、そのあいだにある“生きた揺らぎ”を丁寧にすくい上げる実践として立ち上がる。

原が重んじたのは、物質の手触りや時間の層がそのまま空間の倫理になるような、過剰でも演出でもない〈気配のデザイン〉だった。
産業遺産の質感を残しつつ、新しい生活のリズムを受け止めるこの再開発は、まさに「場が自ら語りはじめる」ような構えをもつ。

米国の分断という硬直した対立に対しても、ここでは空間が人々を“説得”するのではなく、ただ開かれ、ただ受け入れ、ただ共存の可能性をそっと差し出す。
原が好んだ静かな公共性──声高ではなく、しかし確かに人をつなぐ公共性──が、ウォーターフロントの風や素材の肌理の中に息づいている。


ドゥルーズ的に読むなら、Domino Park/Refinery は「中心をもたない都市」の実践形態として立ち上がる。
ここで重要なのは、空間が意味を押しつけず、むしろ差異そのものを生かす“生成変化の場”として働いている点だ。

産業遺産の再解釈は、過去を固定的な記号として保存するのではなく、潜在的な力を現在へと接続する〈折り畳み〉として機能する。
ウォーターフロントの開放性は、主体を規定する境界をゆるめ、誰もが横断できるリゾーム的な接続面をつくり出す。

そこでは公共性は制度ではなく、風・素材・動線といった微細なアフォーダンスの束として立ち上がり、人々は説得されるのではなく、ただ関係へと“誘発”される。
分断を超える契機も、対立を解消する理念ではなく、共存の可能性が静かに生成し続けるこの開かれた場の在り方にこそ宿っている。



☆☆☆GGのつぶやき
Domino Park/Domino Sugar 再開発は、ドゥルーズ的には〈生成変化〉の場であると同時に、いまの米国社会が抱える分断を横断するための実験的な〈接続の機械〉として読める。歴史を単一の物語へ回収せず、多様な記憶や生活が並存する余白をつくることで、互いに異なる主体が交わる“横断的な関係”を生み出す。分断がアイデンティティの境界を硬直化させる一方で、この再開発は空間そのものを〈リゾーム〉化し、異質なもの同士が接触し、摩擦し、別様の未来を試行する場へと変換する。ここでは都市が、対立を前提とするのではなく、差異を抱えたまま共に生成し続けるための開かれたプロセスとして再構築されている。




# by my8686 | 2026-02-05 05:05 | 気になる建築&空間 | Trackback

F.Y.I 都市的リゾーム「The Spur」を読み解く

The Spur(ザ・スパー)


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High Line の最終区間として 2019 年に公開されたエリア。30丁目から10番街へ東に張り出す“枝分かれ(spur)”のような形状から名付けられている。


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The Spur は High Line の中でも特に“広場性”と“アート展示”に重点を置いた空間で、都市の中に開けたパブリックリビングルームのような役割を果たしている。


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設計は、High Line 全体と同じく、James Corner Field Operations(ランドスケープ)+ Diller Scofidio + Renfro(建築)+ Piet Oudolf(植栽)のチーム。


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特徴と空間構成

1.High Line 最大のオープンスペース
The Spur は High Line の中で最も広い広場空間を持ち、座る・集まる・眺めるといった多様な活動が可能。



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2.巨大なチルト(傾斜)プランター
入口には大きく傾いたプランターが配置され、緑の壁のように来訪者を迎える。
植栽は Oudolf の手によるもので、季節ごとに表情が変わる“野性味のある庭”が特徴。



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3.The Plinth(プランス)— モニュメンタルアートの展示台
The Spur の象徴的存在。

- High Line で唯一、巨大な現代アート作品を展示するために設計された場所
- ローテーションで作品が入れ替わる
- オープン時は Simone Leigh の《Brick House》が展示された

都市の中でアートが“主役”になる稀有な場所。



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4.Coach Passage(コーチ・パッセージ)
10 Hudson Yards の建物を貫く高さ約 60 フィート(約18m)の通路。

- 大きな天井高による“カテドラルのような”空間
- つる植物やシェードプランツが吊り下がるように植えられ、都市の峡谷に緑が流れ込むような演出



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5.周囲の建築との関係性
The Spur は Hudson Yards の巨大開発と隣接し、

- ガラスのバルコニー
- 120度に傾いた手すり

など、周囲の高層建築を“見上げる”視線を誘導する仕掛けが施されている。


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植栽デザイン
High Line の他区間と同様、自生種を中心にした自然風の植栽が特徴。
Spur では特に以下のような植物が強調されている。

- ハーツタングファーン(Asplenium scolopendrium)
- クリーピングラズベリー
- フォザギラ(低木)
- クレマチスやウィステリアのつる植物
- ハックベリー、スイートガム、ブラックテューペロなどの樹木

都市の硬質な環境に対して、柔らかい“森の入口”のような雰囲気をつくっている。



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The Spur の都市的意義

● High Line の“フィナーレ”としての象徴性
The Spur は High Line の最後の区間であり、「鉄道遺構の再生」というプロジェクトの締めくくりとして位置づけられている。



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● アートと公共空間の融合
The Plinth によって、都市のど真ん中で巨大アートを無料で鑑賞できるという新しい文化的価値を生み出した。


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● Hudson Yards との接続
巨大再開発エリアと既存の街をつなぐ“都市の縫い目”として機能し、歩行者の流れを自然に誘導する役割も果たしている。



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memo


現在のアメリカの分断状況との関係

いまのアメリカは、

- 政治的分断(リベラル/保守)
- 経済格差(富裕層/低所得層)
- 都市と地方の断絶
など、さまざまな“見えない境界線”が濃くなっている社会。

The Spur を、その文脈の中で見ると、いくつか象徴的な意味が浮かび上がってくる。



1.「誰のための都市か?」という問いへのひとつの応答

Hudson Yards は、超高級住宅・オフィス・商業施設が集まる“富裕層向けの開発”として批判も受けてきた。
一方で High Line は、もともと市民運動から生まれた公共空間であり、The Spur もまた「取り壊しの危機」を Save Our Spur 運動によって救われた歴史がある。

つまり、The Spur は、巨大資本による再開発(Hudson Yards)、市民による公共空間の再生(High Line)。
この二つが物理的にも象徴的にもぶつかり合う場所にある。

その中で、The Spur は、「資本の論理だけではない公共性を、ギリギリのところで確保しようとする装置」として読める。



2. 分断された社会での「共在」の実験場

The Spur に来る人は、観光客、近隣のオフィスワーカー、地元住民、アート目当ての人、たまたま通りかかった人など、属性も階層もバラバラである。

ここで起きているのは、同じベンチに座る・同じ作品を見上げる・同じ夕焼けを眺めるといった、「合意まではいかないが、同じ時間と空間を共有する」というレベルの共在。
分断が深い社会では、「相手を理解する」以前に、「同じ場所にいることすらない」という状況が生まれがちである。

The Spur は、その最初のハードルである「とりあえず同じ場所にいる」を実現するための、かなり繊細にデザインされた“場”だと言える。



3. アートを通じた「対話のきっかけ」

High Line Art は、公共空間におけるアートを「対話を生む装置」として位置づけている。
Plinth に置かれる作品は、しばしば人種、歴史、権力、記憶といったテーマを扱う。

作品そのものが「答え」を提示するというより、見る人の中に「問い」を生むように設計されている。分断された社会では、「自分の物語だけが正しい」という感覚が強くなりがちだが、アートはそこに「別の視点がありうる」という揺らぎを持ち込む。The Spur は、その揺らぎを日常の動線の中に紛れ込ませる場所として機能しているように見える。

The Spur は、単なる「おしゃれな高架公園の終点」ではなく、資本と公共性のせめぎ合いの最前線、分断された社会での「共在」の実験場、アートを通じて、対話のきっかけを仕込む都市装置として読むこともできる。

もちろん、これでアメリカの分断が解消されるわけではないし、High Line 自体がジェントリフィケーションを加速させたという批判もある。
それでも、「分断を前提としたうえで、それでもなお人が交わる場所をどうつくるか」という問いに対して、The Spur はひとつの具体的な“試み”として存在している。




4.High Line に対する「ジェントリフィケーションを加速させた」という批判


 1.周辺地価・家賃の急上昇

 High Line 開業後、チェルシー周辺では高級住宅や超高額コンドミニアムが次々と建設され、地価・家賃が急騰し、低所得層が住みにくくなったという批判がある。
 Zaha Hadid や Jean Nouvel など著名建築家による高級住宅が林立した状況を指摘している。


 2.高級開発の呼び水になった

 High Line の成功が、Hudson Yards のような巨大再開発を後押しし、都市の高級化をさらに加速させたという見方がある。
 High Line 周辺が「富裕層向けの都市景観」へと変質した様子が描かれている。


 3. 地域コミュニティの排除感

 High Line は市民運動から始まったにもかかわらず、観光客中心の空間になり、地元住民の生活空間が観光地化し、商業化が進み、地域の小規模店舗が消えた。


 4.「公共空間の民営化」への懸念

 Friends of the High Line の運営モデルは成功例として評価された。
その一方、公共空間が民間主導で再開発されるモデルが全米に広がったことに対して、社会的公平性の観点から疑問が呈されている。




☆☆☆GGのつぶやき
The Spur は、ドゥルーズ的にはリゾーム的接続やアッサンブラージュとして、異質な要素が水平に結び直される“生成の場”として立ち上がる。アートは思考を脱コード化し、都市の硬い構造にスムーズな空間を挿入し、マイナーな公共性を生み出す装置となる。一方、原弘司の視点では、The Spur は都市文脈を受け止める結節点であり、資本と公共性の緊張を露出させる構造として読まれる。身体の経験を回復し、歴史・植栽・アート・都市開発といった複数のレイヤーを重ね合わせ、分断社会における“共在”のための建築的試みとして機能する。両者を総合すると、The Spur は都市の矛盾を抱えたまま、関係性を生成し続ける動的かつ構造的な公共空間=都市的マシンとして理解できる。



# by my8686 | 2026-02-04 04:04 | 気になる建築&空間 | Trackback

F.Y.I 「Vessel」を読み解く

The Shed に隣接する中央に建つ造形物が気になった。
金属的で骨格的な造形。それがVesselである。


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この建築は単なる“観光名所”ではなく、21世紀の都市空間における「公共性」「身体性」「記憶の器」をめぐる実験そのものだという。ハドソンヤードの象徴的なペアになっている。

あらためて、その内容を読み解いてみよう。



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Vessel

1. 基本情報

場所:ニューヨーク・ハドソンヤード
設計:トーマス・ヘザウィック(Heatherwick Studio)
高さ:約46m(150ft)
階段数:154の階段、80の踊り場
開業 :2019年3月15日
構造エンジニア:Thornton Tomasetti / AKT II



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2. 形態の源泉 ― インドの階段井戸(Stepwell)

ヘザウィックは、ラージャスターン地方の階段井戸(stepwell)に着想を得ている。
無数の階段が反復し、上下方向の空間が幾何学的に絡み合う独特の構造がデザインされている。



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Heatherwick Studio の公式説明では、“Influenced by the Indian stepwells of Rajasthan…” と明言されている。
つまり Vessel は、「階段そのものを建築の主役にする」という逆転の発想から生まれた作品。



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3. 建築的コンセプト ― “使われることで完成する建築”

Vessel は内部に部屋も展示もない。あるのは 階段・踊り場・視線の交差 だけ。
ヘザウィックはこれを「都市のための新しい社交装置(social landmark)」と呼ぶ。


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その特徴は、登る行為そのものが体験になり、視線が交差し、他者の存在が空間を構成する。都市の風景が“切り取られ”、新しい眺望が生まれる。建築が“器”となり、身体が空間を描く。


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まるで「肋骨のような」印象は、この“構造体そのものを露出させる”デザインの本質をとらえている。



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4. 構造と素材 ― 蜂の巣 × 鏡面 × 鉄骨

造形の特徴
・外装は銅色のステンレススチール
・内部はハニカム構造のように階段が連続
・16層の立体格子が上へ向かって広がる



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体験の特徴
・上昇するにつれ、都市の音が変化する
・視界が開けたり閉じたりする“呼吸する空間”
・どの踊り場でも異なるフレーミングの景色が現れる



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5. 社会的背景 ― 安全対策と再開

2021年以降、複数の自殺が発生し閉鎖されたが、2024年10月に安全対策を強化して再開している。建築が社会とどう関わるかという難しい問いを突きつけた事例でもある。



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6. 都市論的意義 ― ハドソンヤードの“記憶装置”

Vessel は、巨大再開発地区ハドソンヤードの中心に置かれた「都市の象徴(icon)」。

しかし、単なるランドマークではなく、人の動きが建築を完成させ、都市の記憶を蓄積する“器(vessel)”。公共空間の新しい形を問う実験という、思想的に非常に野心的なプロジェクトである。



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「Vessel は都市的リゾームとして読めるのか」

Vessel は“リゾーム的な都市装置”として読むことができるが、同時に“権力的に固定化された中心”としての側面も併せ持つ。


1. リゾーム的に読める理由

■ 1) 階層性の拒否

デレーズ=ガタリのリゾームは、階層を持たない・中心を持たない・どこからでも接続できる・無数の経路が交差するという特徴を持つ。

Vessel の内部はまさにそれに近い構造である。

・上下の“階”が曖昧
・どの踊り場からも別の経路へ接続
・視線と身体の動きが無数の交差を生む
・空間が「中心」ではなく「連結の網目」として成立する

つまり、階段の集合体が都市的リゾームのミクロモデルになっている。
この「肋骨のような構造」は、まさに“中心を持たない身体”のメタファーとして読める。



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2. 都市の“接続性”を可視化する装置

ニューヨークは歴史的に、移民・交通・資本・情報・文化が無数に交差し続ける巨大なリゾーム。

Vessel はその中心に置かれ、都市の流動性・接続性・多方向性を象徴的に可視化するという役割を担っている。
階段を登る人々の動きそのものが、都市のリゾーム的生成を“身体化”している。



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3. しかし同時に「反リゾーム」的でもある

ここが重要なポイントである。

Vessel は、巨大再開発(Hudson Yards)という資本主導のプロジェクト、私企業による“公共空間の私有化”の象徴、都市の中心に置かれた“記号的モニュメント”という側面も持っている。つまり、リゾーム的な形態を持ちながら、実際には強い中心性を帯びた都市装置でもある。

デレーズ=ガタリ的に言えば、「リゾームの形をした樹状構造」という逆説すら成立する。



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4. ではどう読むべきか

都市を“生成する生命体”として読む人にとって、Vessel は次のように捉えられる。

形態はリゾーム的:階段の網目、視線の交差、中心の不在。機能はリゾーム的:人の動きが空間を生成し続ける。都市計画的には樹状的で資本と権力が中心を固定化する。つまり、Vessel はリゾームと樹状の“あいだ”にある建築であり、ニューヨークという都市の二重性そのものを体現していると言える。



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Vessel は、都市を生成する生命体として捉える視点から見ると、アーレントの三軸が交差する特異な建築である。

まず 労働(labor) の次元では、絶えず歩き続ける身体のリズムが空間を更新し、階段の網目は都市の生命活動のように循環する。

次に 仕事(work) の次元では、Hudson Yards の資本主導の再開発という樹状的な枠組みが、Vessel を固定化されたランドマークとして位置づけ、都市の構造を形づくる人工物として機能させる。

そして 活動(action) の次元では、歩行者同士の視線の交差や経路の選択が、予期せぬ出会いや差異生成を生み、都市的複数性を立ち上げる。

形態と機能はリゾーム的でありながら、計画は樹状的であるという二重性を抱えるこの建築は、ニューヨークという都市そのものが持つ生成と統制の緊張関係を体現している。



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memo

トーマス・ヘザウィック(Thomas Heatherwick)
英国ロンドン出身のデザイナーで、Heatherwick Studioの創設者。
建築・都市・プロダクト・インフラを横断する独自の活動で知られている。

生年:1970年(ロンドン)
拠点:ロンドン・キングスクロスに約250名のチーム
代表作:
- Vessel(NY)
- UK Pavilion(上海万博)
- Olympic Cauldron(ロンドン五輪聖火台)
- Zeitz MOCAA(ケープタウン)
- Little Island(NY)

Heatherwick Studio は「建築」「公共空間」「交通」「オブジェクト」などを横断する多分野型スタジオで、“建築と工芸のあいだ”を探求する姿勢が特徴。



1. ヘザウィックの核心:〈ソウルフルネス〉という思想

森美術館の展覧会でも強調されているように、ヘザウィックの出発点は「大きな建築にも魂(soulfulness)を宿せるか」という問い。
彼は幼少期から、職人が作った小さな物に宿る“魂”に感動してきたと語っている。

その問いが、巨大な建築を“機械”ではなく“生きた存在”にする、都市空間に身体性と触感を取り戻す、人が触れ、歩き、感じることで完成する建築をつくるという方向へつながっている。
Vessel に感じた「身体性」「骨格性」「生成性」は、まさにこの思想の延長線上にある。



2. ヘザウィックの特徴:建築を“体験の装置”として設計する

・形態が“動き”を誘発する
Vessel の階段構造、Little Island の起伏、Rolling Bridge の可動性など。

・素材の触感を重視する
銅色の金属、木、コンクリートの質感を強調。

・都市の中で“関係性”を生む装置
建築そのものより、そこで生まれる人の動き・視線・交流を重視。

・工芸的ディテール × 都市スケール
森美術館の説明にもあるように、工芸的な“魂”を巨大建築に持ち込む姿勢。



3. 世界的に注目される理由

Heatherwick Studio は、建築界の中でも異質な存在。

- 建築家ではなく“デザイナー”として出発
- 造形の奇抜さではなく“体験の質”を重視
- 都市の公共空間に強い関心
- 技術・工芸・都市計画を横断する
- Google、Longchamp など企業との協働も多い

特に、都市の公共空間を“生きた身体”として再構築する姿勢が、世界の都市政策の文脈でも評価されている。



4. Vessel をどう位置づけるか

ヘザウィック思想の“都市的リゾーム化”の極致である。

- 中心を持たない中心
- 身体が空間を生成する
- 都市の強度を変換する装置
- 工芸的ディテールを都市スケールに拡張
- 公共空間の“魂”を取り戻す試み

つまり、Vessel はヘザウィックの哲学が最も純粋な形で現れた建築といえる。



5.アーレントの思想をどう位置づけるか

彼女は単なる政治哲学者でも、全体主義研究者でもなく、「人間が世界にどう現れ、どう共に生きるか」を根本から問い直した思想家として捉えるのが最も的確だ。
いくつかの軸で整理すると、彼女の位置が立体的に見えてくる。


1. 近代政治哲学の“外側”からの批判者

アーレントは、主権・国家・契約といった近代政治哲学の中心概念をほとんど使わない。

代わりに、世界・公共性・行為・複数性といった、人間の「現れ方」を基礎に政治を再構築した。
彼女は政治を制度ではなく“人間のあいだに生まれる出来事” として捉えた点で独自。


2. 全体主義の“条件”を分析した思想家

アーレントは、全体主義を単なる独裁の強化ではなく、孤立・事実の破壊・世界喪失・大衆の無根拠化といった社会的・精神的条件の総体として理解した。
これは21世紀の分断社会を読み解く鍵になっている。


3. 労働・仕事・活動という“人間の営みの再編”を提示した思想家

彼女の三分法は、経済中心の近代社会を批判しつつ、人間が世界に関わる多様な仕方を回復する枠組みとして重要。
AI時代の「人間とは何か」という問いにも直結する。


4. 都市論・建築論と接続可能な“空間の思想家”

アーレントは建築家ではないが、世界を共有する場・行為が生まれる空間・複数性を支える構造といった概念は、都市空間の分析にそのまま応用できる。
Vessel のような「行為の場」をめぐる議論とも響き合う。






☆☆☆GGのつぶやき
Vessel を「中心を持たない中心」として読む視点は、アーレントの思想と結びつけることで、分断が深まるアメリカ社会に対する鋭い批評へと転化する。アーレントにとって政治とは、固定化された立場の衝突ではなく、人々が行為し、語り合い、世界を共有することで立ち上がる“間”の空間である。Vessel はまさにその「間」を建築として可視化する装置であり、樹状的に硬直した政治空間のただ中に、歩行と視線の交差によって関係性が生成され続ける〈都市的リゾーム〉を挿入している。分断社会において失われつつある“共通世界”を再び立ち上げるためには、このような中心なき中心を都市が受け入れ、異なる人々が交わる場として維持することが不可欠である。アーレントの言う「活動(action)」が生まれる条件を都市政策・管理運営が整えられるとき、Vessel の象徴性は初めて有効に機能する。



# by my8686 | 2026-02-03 03:03 | 気になる建築&空間 | Trackback

F.Y.I 「The Shed(Hudson Yards, 2019)」をいまのアメリカ社会の分断という巨大な背景を重ねて読み解く

The Shed を「都市的リゾーム」として読む枠組みに、いまのアメリカ社会の分断という巨大な背景を重ねると、建築が単なる文化施設ではなく、分断社会の中で“別の接続様式”を提示する都市的実験体として立ち上がってくる。

あらためて、米国の分断を都市論的・哲学的に織り込んで読み解いてみよう。



The Shed:分断社会の中で“接続の形式”を再発明する都市的リゾーム

The Shed は、「潜在的活動を根茎的に増殖させる可動的都市装置」である。
原弘司のいう「都市の関節」「沈黙と生成」「深層構造」であり、
ドゥルーズ=ガタリのいう「非中心性」「連結性」「多様性」「生成変化」を体現する。

しかし、この構造は単なる建築論にとどまらない。
深刻な分断を抱えるアメリカ社会の中で、The Shed は“別の接続の仕方”を提示する都市的実験体として浮上する。



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The Shed は、建築を超えて「都市や社会をいかに再構成しうるか」を問う現代的思考装置として理解できる。
可動性・非中心性・連結性といった根茎的構造は、ドゥルーズ=ガタリの生成変化の哲学を体現しつつ、都市を固定的秩序ではなく“関係が編み替わり続ける場”として捉える現代思想と響き合う。

さらにラトゥールの行為者ネットワーク論やランシエールの感性的分配の観点からは、The Shed が人間・非人間・制度・文化を結節させ、新たな可視性と公共性を生み出す装置として読める。
深刻な分断を抱えるアメリカ社会において、それは異質性を排除せず接続し直すための都市的実験であり、社会を“関係の再構築”として捉える哲学的視点を実践的に提示している。



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🇺🇸 1. 分断社会における「非中心性」:中心を持たない公共性の再構築

アメリカの分断は、政治的立場・文化的背景・経済格差・都市と地方といった軸で“中心”を奪い合う構造として現れている。

The Shed は、中心を持たない公共性=リゾーム的公共性を提示する。

- 固定された用途を持たない
- 誰の文化にも偏らない
- 都市の活動に応じて変形する
- 中心を作らず、複数の入口を持つ

これは、分断社会における「中心をめぐる争い」からの離脱という都市的態度である。



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アメリカの分断は、政治・文化・経済・地理といった複数の軸で「正しい中心」を奪い合う構造として現れ、公共空間さえも対立の象徴となりやすい。
これに対し The Shed は、ドゥルーズ=ガタリのリゾーム的思考を都市空間として具現化し、中心を持たない公共性を提示する。

用途を固定せず、特定文化に回収されず、都市の活動に応じて変形し、複数の入口を持つ構造は、ラトゥール的な「行為者の網目」としての都市、ランシエール的な「感性的分配の再編」とも響き合う。

つまり The Shed は、分断社会における“中心をめぐる闘争”から距離を取り、異質性が共存しうる関係性そのものを設計する哲学的実験である。都市を固定的秩序ではなく、つねに編み替え可能な関係の場として捉える現代思想の実践形態として理解できる。



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2. 「連結性」:断絶された社会を横断する接続の回路

分断とは、接続の断絶でもある。

The Shed の可動外皮は、都市の硬直した境界を“またぐ”構造を持つ。

- 建築と広場を接続する
- 内部と外部を接続する
- 芸術と市民生活を接続する
- 多様な文化的背景を持つ人々を接続する

これは、分断社会において失われつつある横断的な接続の回路を都市の中に再び開く試みとして読める。



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The Shed をアーレントの三軸で読むと、その都市的意義がより立体的に浮かび上がる。まず 「行為」 の軸では、可動外皮が建築と広場、内部と外部を横断的につなぎ、人々が出会い、語り、行為を開始するための開かれた場を創出する点が重要となる。

次に 「公共性」 の軸では、特定の文化や用途に回収されない構造が、多様な人々が可視化されうる空間=アーレントのいう「現れる場」を再構築し、分断によって失われた共通世界の回路を再び開く。

最後に 「世界性(worldliness)」 の軸では、芸術と市民生活、異なる文化的背景を持つ人々を接続することで、私的領域に閉じこもるのではなく、他者と世界を共有するための“世界への関与”を物質的に支える装置として機能する。

The Shed は、分断社会において行為・公共性・世界性を再起動する都市的実験として理解できる。



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3. 「多様性」:文化的断絶を超える“生成の場”

アメリカの文化的分断は、「自分の文化圏に閉じこもる」傾向を強めている。

The Shed は、文化を固定しない、生成し続ける場として設計されている。

- 展覧会から演劇まで
- 実験的アートからコミュニティイベントまで
- 高文化とストリート文化が同居する

これは、分断社会における文化的多様性の“実験場”として機能する。



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アメリカの文化的分断は、人々が自らの文化圏に閉じこもり、異質な価値観や表現に触れる機会を失っていく現象として深刻化している。
こうした状況の中で The Shed は、文化を固定せず、つねに生成し続ける場として設計されている点に独自の意義がある。

展覧会から演劇、実験的アートからコミュニティイベントまで、多様な形式が同じ空間で展開し、高文化とストリート文化が交差する構造は、文化を序列化せず横断的に接続するための回路をつくり出す。

これはアーレントが重視した「複数性」を公共空間の中心に据える実践とも読め、文化的差異を隔離するのではなく、むしろ出会わせ、交差させることで新たな世界性を立ち上げる都市的実験として機能している。



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4. 「生成変化」:固定化された対立を溶かす都市的プロセス

分断は、立場の固定化として現れる。

The Shed は、固定化を拒否する建築である。

- 空間が変わる
- 用途が変わる
- 観客が変わる
- 都市との関係が変わる

この“生成変化”は、分断社会における「固定化された対立」を溶かす都市的プロセスのモデルとして読むことができる。



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分断が深まる社会では、人々は自らの立場や文化的位置を固定化し、他者との関係が硬直していく。
これに対し The Shed は、空間・用途・観客・都市との関係が絶えず変化する構造を持ち、固定化そのものを拒む建築として際立っている。
可動外皮によって内部と外部が再編され、用途は高文化からストリート文化まで横断し、観客層もイベントごとに入れ替わる。

こうした“生成変化”のプロセスは、対立を前提とするのではなく、関係を編み替え続けることで対立そのものを溶かす都市的モデルとして読める。
固定化された立場を揺るがし、異質性が交差する場をつくり出すことで、分断社会における新しい接続の可能性を提示している。



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5. 「都市への挿入」:均質化された再開発への批評性

Hudson Yards は、資本主導の均質化の象徴であり、アメリカの経済格差の縮図でもある。
その中に The Shed は、可変性という“異物”として挿入されている。

これは、経済的均質化・文化的排除・社会的階層化・といった分断の構造に対する建築的な批評行為として読むことができる。



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アーレントの視点から見ると、Hudson Yards のような資本主導の均質化は、人々を経済的・文化的に分断し、公共空間を「誰もが現れる場」ではなく、特定階層だけがアクセスできる領域へと変質させる危険を孕む。そこに挿入された The Shed の可変性は、この閉鎖性に対する建築的な批評として機能する。

用途・空間・観客・都市との関係が絶えず変化する構造は、アーレントが重視した“複数性”を回復し、固定化された階層や文化的境界を揺るがす。
さらに、芸術と市民生活を横断的に接続することで、資本によって均質化された都市空間に「行為が生まれる場=公共性」を再び立ち上げる。

The Shed は、格差と排除が進む都市の中で、世界を共有し直すための“開かれた場”をつくり出す試みとして理解できる。



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総括:The Shed は分断社会における“都市的リゾーム”である

The Shed は、ニューヨークという巨大な樹状都市の中に、別の都市性を地下茎的に伸ばす“都市的リゾーム”である。
そしてそのリゾームは、分断社会において失われた接続・多様性・生成性を都市の深層から再び立ち上げる装置として機能している。



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アーレントの視点から読むと、The Shed がニューヨークという巨大で階層化された樹状都市の中に伸ばす“都市的リゾーム”は、彼女が重視した 行為・公共性・世界性 を再起動する装置として理解できる。まず、固定化された都市構造の下層に地下茎的な回路をつくることは、人々が出会い、語り、行為を開始するための 新たな「現れる場」 を開く試みである。

さらに、文化や用途を限定しない可変的な空間は、アーレントが公共性の条件として強調した 複数性 を都市の深層から呼び戻す。
高文化とストリート文化、内部と外部、市民と芸術が交差する構造は、均質化された都市空間に対する批評として働き、私的領域に閉じこもる傾向を揺さぶりながら、他者と世界を共有するための 世界性(worldliness) を再構築する。

The Shed は、分断社会において失われた接続と生成性を回復する都市的実践として位置づけられる。



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memo

「The Shed をフッサール的に読み解く」
The Shed を「都市的リゾーム」と捉えつつ、そこにフッサール(Husserl)を重ねると、The Shed は単なる都市装置ではなく、都市の“現象学的地平”を変形させる存在として立ち上がってくる。


1. The Shed は“都市の志向性”を変える装置である

フッサールにおいて世界は、意識が志向する対象として成立する(志向性)という前提がある。

ニューヨークのような樹状都市では、資本・交通・文化・階層が縦に積層し、都市の志向性は「上へ」「中心へ」「固定された機能へ」と向かいがちである。
しかし The Shed は、都市の志向性を“横へ”“斜めへ”“未決定へ”と逸脱させる。

可動外殻がスライドし、空間が伸縮することで、都市の“意味の向き”そのものが変わる。
これはフッサール的に言えば、都市の志向的地平(Horizont)が再編成されるということ。


2. The Shed は“前構成的世界(Vorwelt)”へのアクセスを開く

フッサールは、私たちが世界を理解する以前に、すでに前構成的な世界(Vorwelt)が働いていると述べた。

都市にも同じことが言える。

ニューヨークの前構成的世界とは、資本主義的空間構造、不動産価値、文化産業のヒエラルキー、人種・階層の分断といった“見えない前提”である。
The Shed は、その前提を一度括弧に入れ(エポケー)、都市の意味を再構成する契機をつくる。
可動性・可変性・未決定性は、都市の「こうあるべき」という前構成的世界を揺さぶり、別の世界の可能性を開く。



※エポケー(ἐποχή, epoché)

世界についての“当たり前の前提”をいったん停止し、括弧に入れること。
フッサールは、私たちが世界を理解するとき、社会的な常識・科学的な知識・歴史的な前提・都市の構造や制度・自分の価値観といった“すでに与えられた前提”を無意識に使っていると考えた。
エポケーは、それらを一度停止し、「世界がどのように成立しているのか」を純粋に見ようとする態度。

フッサール現象学の核心にある概念で、「都市の前提をいったん括弧に入れる」という議論にまさに直結する。




3. The Shed は“生成中の意味(Sinngebung)”を都市に返す

フッサールの核心は、意味は固定されたものではなく、生成され続けるという考え。

The Shed の可動外殻は、ある時は巨大なパフォーマンス空間、ある時は公共広場、ある時は都市の空隙として振る舞い、意味が固定されない状態を都市に持ち込む。
これはまさに、都市における Sinngebung(意味付与)のプロセスを可視化する行為となる。

都市の意味が「生成中」であることを、建築そのものが示している。



4. The Shed は“間主観性(Intersubjektivität)の場”を再構築する

分断社会とは、間主観性が断絶した社会と言い換えることができる。
フッサールにとって世界は、他者との間主観的な共有によって成立する。

The Shed は、多様な文化イベント・可変的な空間・都市の境界を越える動線を通じて、異なる主体が出会い、共に世界を構成する場を再生する。
つまり、The Shed は都市の間主観性を回復する“現象学的インフラ”として機能している。


5. The Shed は“都市のリゾーム的地平”を開く

「都市的リゾーム」は、フッサール的に言えば、固定的地平ではなく、生成し続ける地平の束である。

The Shed は、都市の志向性を逸脱させ、前構成的世界を揺さぶり、意味生成を開き、間主観性を再構築し、都市の地平を多層化するという一連の働きを通じて、都市の“リゾーム的地平”を現象学的に立ち上げる装置になっている。




☆☆☆GGのつぶやき
The Shed は“都市のエポケー装置”である。フッサール的に総括すると、The Shed は都市の前提を一度括弧に入れ、新しい意味生成の地平を開く“エポケー装置”と言える。また、The Shed は、「潜在的活動を根茎的に増殖させる可動的都市装置」といえる。原弘司のいう「都市の関節」「沈黙と生成」「深層構造」であり、ドゥルーズ=ガタリのいう「非中心性」「連結性」「多様性」「生成変化」である。The Shed の「可動外皮」「用途の非決定性」「都市への挿入」これらが一点で交差する。ニューヨークという巨大な樹状都市の中に、別の都市性を地下茎的に伸ばす“都市的リゾーム”として読むことができる。




# by my8686 | 2026-02-02 02:02 | 気になる建築&空間 | Trackback