JPMorgan Chase 新本社ビル(270 Park Avenue)
このビルは、いまのニューヨーク建築を象徴する“超高層の再定義”そのもの。
あらためて、建築的・都市的・構造的にどこが革新的なのかを徹底的に読み解いてみよう。
JPMorgan Chase 新本社ビル(Foster + Partners)
ニューヨーク最大のオール電化タワーであり、60階・高さ1388フィート(423m)の巨大オフィス。「70階」は計画段階の数字で、完成時は60階で確定している。
1.“トロフィー・タワー”の再定義:象徴性ではなく“都市インフラ”へ
従来のトロフィー・タワーは「企業の象徴」「高さの競争」が中心だった。
しかし270 Park Avenue は違う。
◆ 都市のエネルギー構造を変える建築
- ニューヨーク最大のオール電化タワー
- 水力発電による再生可能エネルギーで稼働
これは単なる“象徴”ではなく、都市のエネルギー転換を担うインフラ的建築。
2. 革命的な構造:巨大な“持ち上げられた基壇”
最大の特徴は、80フィート(約24m)持ち上げられた基壇部。
◆ 特徴
- 巨大な扇形の柱(fan-shaped columns)と三角ブレースで支える
- 1ブロック全体が“浮いている”ような軽さ
- 歩行者空間を拡張し、都市の透過性を高める
これはマンハッタンの超高層では異例で、グリッド都市に“空隙”をつくる構造的ジェスチャーでもある。
3.新しいミッドタウン東ゾーニングの最初の巨大プロジェクト
ミッドタウン東の再開発は、老朽化したオフィス街を21世紀仕様に再編する都市政策。
270 Park Avenue はその最初のフラッグシップ。
◆ 都市政策との連動
- 古い本社ビルを解体し、同じ敷地に2.5倍の床面積を再構築
- 2.5 million sq ft(約23万㎡)の巨大オフィス
- 1万人の社員を収容
つまりこれは“企業の建築”であると同時に“都市の再編装置”。
4. 環境性能:NYの新しい基準をつくる
健康・環境性能の高さ。
◆ 特徴
- 運用時の炭素排出ゼロ(net-zero operational emissions)
- 全館オール電化
- 屋内空気質が最高基準を超える
- スマート技術によるエネルギー最適化
これは単なる“グリーン建築”ではなく、超高層オフィスの環境基準を再定義するプロトタイプ。
5. 空間構成:21世紀のオフィスのモデル
Foster + Partners はこのビルを「現代の職場の定義」と呼ぶ。
◆ 空間の特徴
- コラボレーション重視のフロア構成
- 2.5 million sq ft の柔軟なワークスペース
- スマートインフラによる働き方の最適化
つまり、「オフィスの未来」を建築として実装した最初の巨大事例。
6. 構造革新:巨大カンチレバーの実現
このビルの最大の技術的成果は“革命的なカンチレバー構造”。
◆ 何が革新的か
- 下層部を大きく持ち上げるため、 巨大なカンチレバー(張り出し)構造を採用
- これにより、
- 歩行者空間の拡張
- 都市景観の軽量化
- 地上部の公共性向上
が可能になった。
これはマンハッタンの超高層史でも異例とされる。
総括:270 Park Avenue は“超高層の未来モデル”
このビルは次の4点で歴史的。
①超高層を都市インフラとして再定義
(エネルギー・環境・ゾーニング)
②構造の革新:巨大な持ち上げ基壇とカンチレバー
③都市政策と企業戦略の結晶
(ミッドタウン東再編の象徴)
④オール電化 × 再エネ × スマート化の“未来型オフィス”
“均質化の表層 × 非均質性の深層”という都市論的視点で見れば、270 Park Avenue はグリッド都市の均質性の上に、環境・構造・都市政策という“深層の差異”を重ねた建築と言える。
memo
全体像:270 Park Avenue は「21世紀型本社ビル」のプロトタイプ
Foster + Partners が設計した JPMorgan Chase の新本社ビル「270 Park Avenue」は、単なる超高層オフィスではなく、「環境性能」「都市空間」「働き方」の三つを同時に更新することを狙った、かなり野心的なプロジェクトである。
高さ約423m・60階建て、延床約23万㎡、最大1万人が働くこのタワーは、ニューヨーク最大の“オール電化”タワーであり、運用段階でのカーボン排出実質ゼロを目指す、象徴的なサステナブル本社として位置づけられている。
1. 形態と構造コンセプト:持ち上げられたボリュームと扇状の柱
建物を「持ち上げる」構造
・地上約24m(80ft)持ち上げられたボリューム
タワー本体は地面から約24m浮かせるように持ち上げられ、その下に大きな都市的な「空隙」がつくられている。
・扇状に広がる柱+三角形ブレース
敷地下のインフラ制約(鉄道・地下構造など)を避けるため、柱を扇状に広げ、三角形のブレースで支持する独特の構造システムを採用。これにより、地上レベルでは接地面を最小限に抑えつつ、超高層タワーを安定して支えている。
□都市空間との関係
・ブロック全体に「軽く接地」するタワー
建物を持ち上げることで、以前の建物に比べて屋外スペースを約2.5倍に拡大し、歩行者空間や緑化されたプラザを創出している。
・視線の貫通
パーク・アベニュー側のエントランスからマディソン・アベニューまで視線が抜けるように計画され、街路レベルでの抜けと開放感を強調している。
この「持ち上げられたボリューム+扇状の柱」は、構造上の制約への解答であると同時に、パークアベニュー沿いの“重い”タワー群の中で、軽やかさと公共性を強調する都市的ジェスチャーになっている。
2. サステナビリティと環境性能:ニューヨーク最大のオール電化タワー
□オール電化+再生可能エネルギー
・ニューヨーク最大の全電化タワー
270 Park Avenue は、ニューヨーク市で最大のオール電化タワーであり、運用電力はすべて水力発電による再生可能エネルギーで賄う計画。
・運用時カーボン排出実質ゼロ
建物の運用段階でのカーボン排出を実質ゼロとすることを目標に設計されており、都市スケールでの脱炭素の象徴的プロジェクトとされている。
□既存建物の解体と資源循環
・解体材の97%をリサイクル・再利用
旧ユニオン・カーバイド・ビルの解体に際し、解体材の約97%をリサイクルまたは再利用することで、建設段階の環境負荷低減にも踏み込んでいる。
□認証・健康性
・LEED Platinum v4 と WELL Health-Safety Rating を目標
国際的な環境性能認証 LEED Platinum v4 と、健康・安全性に関する WELL Health-Safety Rating の取得を目指し、エネルギー効率だけでなく、室内環境・健康性も重視した設計となっている。
※LEED Platinum v4 とは:
・世界的な環境性能認証 LEED の v4 バージョンに基づく最高ランク
・建物の環境性能を総合的に評価し、80 点以上で認証
・エネルギー、水、材料、室内環境、立地など多方面で高い基準を満たす必要がある
・近年のサステナブル建築の「最先端の証明」とされる
※WELL Health-Safety Rating とは:
・WELL 認証のサブセットで、建物の運用管理の健康・安全性を評価する国際基準
・感染症対策・空気質・水質・清掃・緊急時対応などに特化
・実測・実行ベースの審査
・1 年更新で継続的な安全性を担保
・ESG・人的資本経営の文脈で世界的に普及
・高い室内空気質
室内空気質は、サステナビリティと健康・ウェルネスの最高水準を上回るレベルを目指して設計されているとされている。
Foster + Partners のコンセプトは、「環境性能を“付加機能”ではなく、構造・形態・都市計画と一体化させる」ことにあり、タワー全体がサステナビリティの“装置”として振る舞うように構成されている。
3. 都市計画的意義:Midtown East 再開発の触媒として
□フルブロック開発と Midtown East Rezoning
・フルブロックのタワー
敷地はパークアベニュー、マディソンアベニュー、47丁目、48丁目に囲まれたマンハッタンの一街区全体で、タワーはこのフルブロックを占める構成。
・Midtown East Rezoning の象徴的プロジェクト
270 Park Avenue は、Midtown East 再開発(Rezoning)における重要な触媒プロジェクトと位置づけられ、周辺のオフィスストック更新や公共空間の改善を牽引する役割を担っている。
□歩行者空間と公共性の強化
・マディソンアベニュー側のランドスケーププラザ
マディソンアベニュー側には緑化されたプラザが設けられ、歩行者の滞留・通過の両方を受け止める都市的な外部空間として機能する。
・歩道の拡幅
周辺歩道の拡幅や歩行者動線の改善により、ビル単体ではなく、街区全体の歩行環境を向上させる計画となっている。
・交通インフラとの連携
地下鉄や地域交通インフラとの接続改善も組み込まれており、都市交通ネットワークのハブとしての機能も強化されている。
Foster + Partners は、このタワーを「企業の本社ビル」であると同時に、「Midtown の公共インフラの一部」として位置づけており、基壇部の持ち上げやプラザ整備は、その都市的役割を視覚化するデザインといえる。
4. オフィス空間とワークプレイス・コンセプト
□柔軟でコラボレーティブなワークプレイス
・約250万ft²(約23万㎡)、最大1万人の従業員
タワー内部には、最大1万人の従業員が働くための柔軟でコラボレーティブなオフィス空間が計画されている。
・21世紀型インフラとスマートテクノロジー
先進的なインフラとスマートビル技術を組み合わせ、将来の働き方の変化にも対応できる「アダプティブ」なワークプレイスを目指している。
□「エクスチェンジ」と呼ばれるコミュニティハブ
・3層吹き抜けの「エクスチェンジ」
タワー中央部には3層吹き抜けの「エクスチェンジ」と呼ばれる空間があり、16の異なる施設を備えたコミュニティハブとして機能する。
・タウンホールや大規模集会の場
タウンホールミーティングや大規模な社内イベントのためのスペースも含まれ、単なる執務空間ではなく、組織文化を育む「社内都市」のような役割を担う。
□ロビーとアクセスのインクルーシブデザイン
・モニュメンタルな階段と中2階
1階ロビーはメインエントランスとして、モニュメンタルな階段と中2階を備え、空間的な広がりと儀礼性を演出している。
・インクルーシブなアクセス
スロープやエレベーターにより、すべての人に対してインクルーシブなアクセスを確保することが明示されており、バリアフリーを前提とした設計思想が読み取れる。
ここでのコンセプトは、「本社ビル=単なるオフィスの箱」ではなく、「多層的なコミュニティ空間」としての本社像を立ち上げることにある。
構造的なダイナミズム(持ち上げられたボリューム)と、内部のコミュニティハブ(エクスチェンジ)が、外と内で呼応する構成になっている。
5. Foster + Partners のコンセプトの核
まとめると、Foster + Partners による JPMorgan Chase 新本社ビルの設計コンセプトは、次のように整理できる。
1. 構造と都市空間の統合
扇状の柱と三角ブレースによる持ち上げられたタワーは、地下インフラの制約を解決しつつ、地上レベルに大きな公共空間と視線の抜けを生み出す「構造=都市デザイン」として機能している。
2. サステナビリティを建築の“前提”にする
オール電化、再生可能エネルギーによる運用、解体材の97%リサイクル、LEED Platinum v4・WELL Health-Safety Rating など、環境性能と健康性を建物の根幹に据え、「環境配慮型本社」の新しい標準を提示している。
3. 本社ビルを「都市の一部」として再定義
Midtown East Rezoning の触媒として、歩道拡幅、プラザ整備、交通インフラとの連携を通じて、企業の本社が都市公共空間の質を高める主体であることを示している。
4. ワークプレイスを「コミュニティの場」として設計
エクスチェンジを中心とした多層的なコミュニティ空間、柔軟でコラボレーティブなオフィス、インクルーシブなアクセス設計により、企業文化とウェルビーイングを支える「社内都市」を構築している。
「JPMorgan Chase 新本社 270 Park Avenue」は、ドゥルーズ=ガタリの概念を使うと驚くほど多層的に読めてくる。
超高層建築を「資本の象徴」としてではなく、都市の生成を駆動するアンサンブラージュとして捉えると、ニューヨークという都市そのものの“差異の生産装置”が見えてくる。
以下、平滑空間/アンサンブラージュ/差異の生成の三つの軸で読み解いてみよう。
1.平滑空間(smooth space)としての270 Park Avenue
ドゥルーズにおける「平滑空間」は、均質で、方向性がなく、流れが自由に走る空間。
マンハッタンのグリッドは典型的な“平滑化された都市”ですが、このビルはその上に新しい平滑性を重ねている。
◆ 基壇を80フィート持ち上げる=都市に“空隙”をつくる操作
- 地上部が大きく開放され、歩行者の流れが自由に通り抜ける
- グリッドの硬直性を一時的に“解きほぐす”
- 都市の流れ(フロー)を再編成する
これは、超高層建築が都市の平滑性を増幅する稀有な例。
通常のタワーは地面を塞ぎ、都市を“溝状化(striated)”するが、270 Park は逆に都市を滑らかにする方向へ作用している。
2.アンサンブラージュ(assemblage)としての270 Park Avenue
アンサンブラージュとは、異質な要素が結びつき、機能し、生成し続ける“集合体”。
このビルはまさに巨大なアンサンブラージュ。
◆ ① エネルギーのアンサンブラージュ
- オール電化
- 水力発電による再生可能エネルギー
- 都市の電力網との新しい接続
→ 建築が“電力の流れ”を再編する。
◆ ② 都市政策のアンサンブラージュ
- ミッドタウン東の再開発政策
- ゾーニングの刷新
- 歩行者空間の再構成
→ 建築が“都市の規則”を再構成する。
◆ ③ 資本のアンサンブラージュ
- JPMorgan の企業戦略
- グローバル金融の象徴性
- 1万人の労働空間
→ 建築が“資本の流れ”を可視化する。
◆ ④ 構造技術のアンサンブラージュ
- 巨大カンチレバー
- 扇形の柱
- 高度な環境制御
→ 建築が“技術の集合体”として機能する。
つまり270 Park Avenue は、都市・資本・エネルギー・身体・技術が結びつく巨大な生成装置として立ち上がっている。
3.差異の生成(becoming)としての270 Park Avenue
ドゥルーズにおける“差異”は、単なる違いではなく、生成し続ける力(becoming)。
このビルは、ニューヨークの均質なグリッドの上で、新しい差異を生み出す三つの生成を起こしている。
◆ ① 都市の差異生成:グリッドの中に“空隙”を挿入する
- グリッドは均質化の象徴
- そこに巨大な“持ち上げ空間”を挿入することで
→ 都市の流れが変わる
→ 歩行者の動線が変わる
→ 視線の抜けが生まれる
これは都市の“微細な差異”を生み出す操作。
◆ ② 資本の差異生成:トロフィー・タワーの再定義
従来の超高層は、高さ × 権力 × 象徴性の三点セットだった。
しかし270 Park は 環境 × 都市政策 × 公共性という新しい価値軸を導入する。
→ 資本の象徴が“環境インフラ”へと変容する
→ これは資本の差異生成
◆ ③ 身体の差異生成:働き方の再構成
- 空気質の最適化
- コラボレーション空間
- スマートワークプレイス
→ 労働の身体性そのものが変わる
→ 都市の“身体的経験”が更新される
総括:270 Park Avenue は“差異を生み出す都市マシン”
ドゥルーズ的に言えば、このビルは「平滑空間の再編」(都市の流れを滑らかにする)、アンサンブラージュの結節点(資本・技術・政策・エネルギーの集合体)、差異生成の装置(都市・資本・身体の新しい形を生む)として機能している。つまり、ニューヨークという均質化された都市の深層で、新しい差異を生成する“都市的リゾーム”として読むことができる。
☆☆☆GGのつぶやき
都市は差異を生み出す“リゾーム的生成装置”として進化し、国家権力は境界を強化する“溝状化の力”として作用する。報道されているトランプ大統領の最近の行動は、国家レベルでの空間の硬直化・境界化の動きとして読める。その対照として、270 Park Avenue は都市の深層で差異を増殖させる“生成のマシン”。つまり、ニューヨークの都市生成と、国家権力の強硬化は、ドゥルーズ的には「平滑化 vs. 溝状化」の二つの空間操作として同時に進行している。